トランプ米大統領は1月20日の就任演説の中で、人の性別を「男性と女性」の二つのみとする大統領令に署名して、米全土で吹き上げてきた「トランスジェンダーの狂気」を排除する「常識革命」を高らかに宣言した。トランプ氏の就任を受け、行き過ぎたジェンダーフリーは消滅し、本来の男女2性の世界が戻ってくることは歓迎すべきだ。
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トランプ大統領 ホワイトハウスXより
ところで、トランプ氏を支持してきた保守的伝統主義者の中では、男は男らしく、女は女らしくあるべきだという不文律が再び重要視されていくなか、特に,若い男性の中で、どうすれば男らしくなれるかで戸惑いも見られる。
「男らしさ」の回帰をもたらす契機となったのは米国ではトランプ大統領だろう。トランプ氏は米国を再び偉大な国にすると宣言し、経済大国を背景に、関税を武器にし、国際関係では「力の政治」を全面に押し出している。また、トランプ氏の最側近、イーロン・マスク氏は効率化省を担当し、脆弱で、実績のない官僚を解雇するなど、剛腕を振るっている。
トランプ氏もマスク氏もパワーを信じ、行動力を発揮している。経済分野でも、チームワークと多様性といったことより、闘争心、リーダーシップが叫ばれ出してきた。何があっても自分の信念を貫くといった伝統的なアメリカン・マスキュリニティが評価されだしたのだ。
マスク氏もアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領も電気のこぎりをもって演壇に上がり支持者に男らしさを見せつけている。あたかも電気のこぎりが「男らしさ」の象徴のようにだ。フェイスブックの生みの親、メタの最高指導者マーク・ザッカ―バーグ氏はもはや小柄なジーンズ姿ではなく、男らしさを取り戻すために筋肉トレーニングに余念がない。マスク氏、ミレイ大統領、ザッカ―バーグ氏はいずれも「男らしさ」の価値を再発見したのだ。
トランプ氏は78歳の高齢ということもあって筋肉マンにはなれないが、総合格闘技(MMA)のファンとして知られている。囲まれたリンク上で2人の人間が相手を倒すまであらゆる手段を駆使して戦うスポーツだ。いま若い世代の男性たちに「男らしさ」のシンボルと受け取られている格闘スポーツだ。トランプ氏がウクライナ戦争を停戦させるために交渉を求めているロシアのプーチン大統領も男らしさを重視するという点では負けない。上半身裸で馬にのっているプーチン氏の写真はよく知られている。
すなわち、若い男性ばかりか、権威主義的な政治家も男らしさをアピールすることに余念がないわけだ。これは過度なジェンダーフリー運動の反動としての社会現象といえるかもしれない。「男らしさ」を求めて、筋肉増強や武道に関心をもつ男性が増えてきているのだ。
1970年代以降のフェミニズムやジェンダー平等運動により、性別に基づく役割意識は大きく変化した。しかし、近年「性差を完全になくすべき」とする過度なジェンダーフリーの流れに対し、「人間には本来の性別による特性がある」という声が強まってきたわけだ。
トランプ大統領は、従来の政治的正しさ(ポリティカル・コレクトネス)やリベラルな価値観に対して、伝統的な価値観の復権を主張してきた。大統領の支持者の多くは、「アメリカ的な男らしさ(rugged masculinity)」を重視し、「強いリーダー」「家族を守る男」といった価値観を支持する傾向がある。
参考までに、「男らしさ」を求める傾向は、保守的な右派の若者だけにみられるのではなく、イスラム教過激思想に走る若いイスラム教徒にもいえる。ドイツのミュンスター大学でイスラム教の教義を教えているモウハナド・コルチデ氏はオーストリアの日刊紙スタンダード日曜版で「イスラム教で過激主義に走る若者は‘間違った男性像‘を有している」と述べている。
.ところで、オーストリアの哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは「男らしさとは強さではない。自分の弱さを受け入れることだ」と述べている。この言葉を若い世代に理解させることは容易でないかもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年3月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。