党首選に圧勝したカナダの新首相はアメリカとどう対峙するのか?

トルドー氏の首相辞任表明を受け、氏の所属する自由党の党首選が3月9日に行われ、得票率86%という圧勝でマークカーニー氏が首相に選ばれました。カナダ総督の承認を受けて首相に就任するので今週中か来週にも正式なものとなります。

マーク・カーニー首相インスタグラムより

カーニー氏はカナダのノースウェスト準州で生まれ、アルバータ州エドモントンで育ったのち、ハーバード大を卒業、英国オックスフォードで修士、ゴールドマンサックスで13年働きます。その際、駐在員として東京にもいたことがあります。2003年にカナダ中央銀行に、04年にはカナダ財務省のポジションも得ます。

2008年から13年までカナダ中央銀行総裁となります。総裁着任時は42歳の若さです。その頃はちょうどリーマンショックで世界が揺れる中、カナダは銀行システムが健全だったことやカーニー氏が総裁就任直後の金融政策政策定例会議で50ベーシスポイントの利下げを断行するなど大胆で非常に上手な金融政策を行い、リーマンショックの衝撃を和らげるのに大きな貢献をしています。このあたりは私もよく覚えていて、カナダには優れた人がいるものだと思ったりしたものです。

2013年に任期満了に伴いカナダ総裁を終えると直ちに英国の中央銀行、Bank of Englandの総裁に就任します。これには私以上にカナダ人が驚きました。中央銀行の総本山とも言えるBank of Englandのトップに就く史上初の外国人なのです。いかに優秀な人物だと評されていたか想像できます。任期中、EUからの離脱プロセスで英国が大揺れになっている時であり、その荒波の中、金融危機が起きないよう手腕を見せました。7年間のタームを終えてカナダに帰国したのは2020年です。

その後、アセットマネージメント企業として世界トップクラスのブルックフィールド社に入り、会長にまで就任します。特に環境問題には英国人の夫人がその専門の研究者であることもあり、傾注しており、カーボンニュートラルなどに深くかかわってきています。またブルームバーグ社の取締役会議長も務めていました。

今般、政治経験がほぼない首相が誕生したわけですが、2回で合計12年にわたる中央銀行総裁を経ており、特に英国にいた際には欧州との絡みも多く、キーパーソンとの接点も多かったはずで人脈は相当築いているはずです。普段は笑うところを見たことがないのですが、当地の報道によると実は非常にユーモラスな性格だそうです。

党首選で86%という圧勝の支持率をもたらしたものは何だったのでしょうか?単に対抗馬とされるフリーランド元副首相がトルドー氏と二人三脚だった時代が長かったことでトルドー氏のやり方を継承することを敬遠されただけでしょうか?個人的には党員がカーニー氏のその実績と手腕を評価し期待したのだと思います。

選挙戦の際はほとんどインタビューを受けておらず、明白なポリシー、特にアメリカの関税措置についてどう対処するのか不明瞭ですが、カーニー氏は既に大枠の戦略を立てていると見ます。

まずは組閣を行い、その上で野党の保守党から出される内閣不信任案を受けた解散総選挙となるのでしょう。現状、野党保守党がトランプ氏追随型ですが、カナダ人は歴史的にアメリカ人とは明白な精神的バリアがあります。国際関係論や国際文化論では必須のアイテムで私もカナダに来てすぐに紐解いたのがこの分野です。日本の方から見ればそれこそトランプ氏のいう51番目の州ぐらいにしか見えないと思いますがそこにはナイアガラの滝で分断されている両国の国境と同じぐらい深い溝があるのです。

私はトルドー氏の辞任表明後、党首選はフリーランド氏とカーニー氏の実質一騎打ちになり、初期の世論調査ではフリーランド氏有利だったもののカーニー氏が首相になればよいとこのブログに記しています。理由はトランプ氏と真逆の性格でトランプ氏がやりにくい相手になると見たからです。カーニー氏は秩序立てて物事を考える極めて実務的で現実的な仕事をしてきています。関税がどのような影響を及ぼすかは金融の世界に長かったこともあり、世界で最もその意味を理解している一人のはずです。また欧州とのコネクションも強いことから欧州からのバックアップも取りやすいでしょう。

政策に派手さはないと思いますが、まずはカナダ経済をしっかり支え、タリフマンとの折衝になるでしょう。いみじくもアメリカの株が明白に下げ、投資家がそっぽを向き、テスラ社の株価は大きく崩落している中でのトランプ氏への新たな挑戦状となります。中国はアメリカの自壊を待つ姿勢ですが、カーニー氏はまずは4月2日の相互関税の影響を最小限に食い止めることが目先の仕事になりそうです。私は期待しています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月11日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。