政治感覚の鈍さにあきれる
石破首相が当選1回の自民党衆院議員約15人と懇談し、土産代わりに商品券をそれぞれの事務所に届けたことが明らかになりました。こういう分かりやすい話ほど、悪いタイミングが重なると騒ぎが大きくなる。石破首相の辞任は不可避と思います。
石破茂首相 首相官邸HPより
石破氏は記者団に「政治資金規正法の何条の違反か」と、逆質問をしました。そんな次元の問題にとどまることではありますまい。金額は小さくても、とてつもなく高くつく判断ミスです。
見出しに「最悪極まるタイミング」とつけて、念のため辞書を調べますと、「悪質極まる」が正しく、「最悪極まる」は「極まる、最悪は意味がだぶる。最悪でよい」との指摘がありました。では「悪質極まる」ではどうかとなると、「1人10万円の商品券」程度の配布は悪質とはまでは言えない。単純な問題ほど分かりやすく、相手は攻めやすく、世論に火がつくのです。
少数与党という弱さ、綱渡りの政策連携、予算案審議の失態、悪化する財政状況、しかも夏には参院選が控えている。慎重には慎重を要する国内情勢です。国際情勢をみても、トランプ米大統領による乱暴な政治や関税引き上げ、ウクライナ戦争の停戦問題、米欧の離反、今後の日本の安全保障政策など、政治は一刻の猶予も許されない。それこそ最悪極まりないタイミングで首相の不用意な行動が飛び出した。
トランプ氏の対日政策が厳しくなることに備え、石破首相が訪中し、首脳会談の可能性を探ってきました。辞任論が高まれば、訪中はできますまい。次の首相が決まったとしても、まず訪米からのスタートです。
「政治とカネ」で惨敗したことを反省し、与野党との妥協を繰り返しながら、参院選をしのぎ、細々と政局を乗り切ろうを石破氏は考えてきたことでしょう。それが「10万円かける15人」で全てがぶち壊しになる。そんな危うい橋を渡っているという意識、自覚が石破氏には欠落していたのです。商品券の配布を止める側近はいなかったのでしょうか。
与野党から「耳を疑う」、「繰り返す予算修正への陳謝を考えると、タイミングが悪すぎる」、「首相の政権運営に対する不満が鬱積している」、「企業・団体献金についても話し合っている時期なのだ」、「首相の職を続けるのは難しいのではないか」などの声が上がっています。
政治家個人の政治活動に対する寄付(金銭など)を禁止している政治資金規正法との関係では、グレーゾーンの要素があっても、石破首相の政治感覚の悪さは否定のしようがない。悪質さから言えば、4つの事件で起訴を受けているトランプ氏のほうがずっと上でしょう。悪質なトランプ氏は危機をしのぎ、皇帝然と振る舞い、石破氏は軽犯罪みたいな行動で墓穴を掘る。あまりにもばかばかしい日本です。
石破氏の場合は、度重なる政策運営の不手際に、今回の初歩的なミステークが重なり、首相の政治運営能力の低さは悲劇的ということになりました。世論にも火が付き、維新の会や国民民主党も自民党と距離を置くことになるでしょう。一気に政局は流動化し、混乱状態に陥ります。与野党の中道勢力が連立を組もうとする動きも絶えることになります。
さらに困ったことは、石破首相は辞任した場合でも、自公政権の支持率の低下は必至で、参院選はまた惨敗するかもしれません。少数与党のまま、新しい首相に首をすげかえたところで、その寿命は短いかもしれない。そんな時に名乗り出る強力な首相候補はいるのでしょうか。世襲政治を繰り返してきたからこういうことになるともいえます。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年3月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。