ペンタゴンで原爆投下した爆撃機の写真が削除?

トランプ大統領は過剰なLGBT運動やジェンダー・フリー運動などで定着した「非常識」な世界を「常識」に戻す通称「常識革命」を宣言し、実施中だが、「非常識」を「常識」に戻すために「非常識」な手段や行動に走る、というケースも出てきている。

広島に原爆を投下したB29爆撃機とパイロットのティベッツ大佐、Wikipediaより

AP通信によると、ペンタゴンで1945年に広島に最初の原爆を投下したB-29爆撃機「エノラ・ゲイ」の写真が少なくとも3枚、データーバンクから削除されたことが明らかになった。国防総省は削除の理由を説明していないが、考えられる理由としては、「エノラ・ゲイ」の「Gay」という単語が英語で「同性愛者」という意味も持つためではないかと言われている。しかし、B29「エノラ・ゲイ」の名称は、実際にはパイロットの母親の名前に由来している。そのことは国防総省側も知っていたはずだ。

米国防総省はトランプ政権が発足して以来、軍内の過剰なジェンダー主流化を撤廃し、ダイバーシティ・マネジメントに基づく人事管理などの再考を推進、軍内の規律を刷新する「常識革命」を推進中だが、ペンタゴンは歴史的な写真は多様性、公正、包括性(DEI)プログラムの停止措置から除外すると表明していた。

爆撃機「エノラ・ゲイ」の写真のほか、米空軍初の女性戦闘機パイロットであるジーニー・リーヴィット大佐や、第二次世界大戦中に独立した部隊として戦ったアフリカ系アメリカ人の最初の軍事パイロット部隊「タスキーギ・エアメン」の写真も削除対象となった。しかし、ホワイトハウスの指示により「タスキーギ・エアメン」の動画は再公開されたが、「エノラ・ゲイ」の写真は削除されたままだ。

B.29「Enola Gay」は、第2次世界大戦の原爆投下という歴史的事件において極めて重要な存在であり、その写真の削除は歴史的な事実の隠蔽と受け取られかねない。また、アフリカ系米国人パイロット「タスキーギ・エアメン」や、米空軍初の女性戦闘機パイロットの写真も削除対象となっていたことから、多様性の歴史を抹消しようとする意図があると疑われても仕方がない面がある。

トランプ大統領は就任宣言の中で「人間は男性と女性の2性だ」と表明し、過激な性的少数派(LGBTQ)運動やジェンダー・フリー運動に対し明確な反対の姿勢を表明、伝統的な価値観を重視する政策を推進してきた。軍隊におけるトランスジェンダーの権利制限はその象徴的な例だろう。

トランプ政権はまた、「文化戦争(Culture War)」と呼ばれる政治的・社会的対立の中で、「政治的正しさ(ポリティカル・コレクトネス)」への反発 を鮮明に打ち出している。例えば、バイデン前大統領時代、米国の植民地政策や奴隷制度に関連した人物像や歴史的な像が破壊されたりする暴動が起きた。一般的に 「モニュメント撤去運動(Monument Removal Movement)」 や 「像撤去運動(Statue Removal Movement)」 と呼ばれる運動だ。特にこの運動は、「BLM(Black Lives Matter)運動」 や 「脱植民地化運動(Decolonization Movement)」 の一環として行われることが多く、南北戦争時の南軍指導者(例:ロバート・E・リー将軍)、奴隷制度を支持していた政治家(例:ジェファーソン・デイヴィス)、さらにはクリストファー・コロンブスの像なども撤去対象となった。大学構内で支持派と反対派の間で激しい論争が起きたりした。

トランプ政権は「反LGBTQ」「反DEI」を掲げているが、歴史的資料までその影響が伸びると、政治的イデオロギーによる歴史の書き換えとなる危険性が出てくる。「ポリティカル・コレクトネス(PC)」に反発する一方、「反PC」を推し進めるあまり、逆に極端な検閲をしてしまう、といった自己矛盾に陥る。

今回のペンタゴンによる写真削除は、もしも「Gay」という単語だけが問題視されているなら、これは歴史の改ざんや言葉狩りに近い動きと捉えられる。特に、「エノラ・ゲイ」は広島に原爆を投下した爆撃機だ。日本人にとっても忘れることが出来ない歴史的出来事だ。

参考までに、「エノラ・ゲイ」という名前の由来について、ChatGPTから情報を紹介する。

「『エノラ・ゲイ』という名前は、この爆撃機の機長であるポール・W・ティベッツ(Paul W. Tibbets)大佐の母親の名前 から取られた。彼の母の名前は 『エノラ・ゲイ・ハギンス』(Enola Gay Haggins Tibbets) だ。ティベッツ大佐は、広島への原爆投下を行うB-29機に特別な名前をつける必要があると考え、母親の名前を選んだという。それではなぜ母の名前を選んだのか?ティベッツ大佐は母親に対する敬意と愛情を込めて、自分の乗る機体に彼女の名前をつけたとされる。名前の響きや意味は当時としては特に問題視されるものではなく、戦争中の爆撃機に個性的な名前をつける伝統の一環でもあった」

なお、「ゲイ(Gay)」は当時の英語では「陽気な」「快活な」「明るい」という意味だ。現在の「同性愛者」という意味は1945年当時にはなかった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年3月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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