1. 労働者1人あたり総固定資本形成
前回は経済活動別に見た総固定資本形成や固定資本減耗、純固定資本形成についてご紹介しました。
投資は製造業で多く一定水準が維持されてきた一方で、不動産業や公務などはかつてよりも水準が低下しているようです。
前回ご紹介したのは、経済活動別の総額となります。
今回は、経済活動別の労働者1人あたりの水準についてご紹介していきます。
まずは経済活動別の労働者1人あたり総固定資本形成から見ていきましょう。
図1 経済活動別 労働者1人あたり 総固定資本形成
OECD Data Explorerより
図1が日本の経済活動別労働者1人あたり総固定資本形成です。
電気・ガス・空調供給業、公務、情報通信業、製造業の水準が高い事がわかります。
これらの産業は、労働生産性が高い事でも知られていますね。
労働生産性は総付加価値(又は粗付加価値)を労働者1人あたりや労働時間で割った数値です。
電気・ガス・空調供給業に至っては、1990年代には1人あたり2500万円以上、2022年でも1392万円の投資があることになります。
製造業は1990年代の水準よりも増加していますが、電気・ガス・空調供給業、公務、情報通信業はかつての水準よりも目減りしています。
インフラ系の公共投資が減少している事と、情報通信業については電波基地局の設置などがある程度行き渡ったことなどが影響しているかもしれませんね。
大変興味深い傾向です。
2. 労働者1人あたり固定資本減耗
続いて、経済活動別の労働者1人あたり固定資本減耗についても見てみましょう。
図2 経済活動別 労働者1人あたり 固定資本減耗 日本
OECD Data Explorerより
図2が日本の経済活動別労働者1人あたり固定資本減耗です。
やはり、電気・ガス・空調供給業が圧倒的ですね。
総固定資本形成では減少傾向でしたが、固定資本減耗は横ばい傾向です。
2022年で労働者1人あたり1359万円もの固定資産の減耗がある事になります。
公務や鉱業も高い水準で、1990年代以降も増加傾向が続いています。
一方で情報通信業はやや低下傾向で、少し状況が異なるのが興味深いですね。
製造業もやや増加傾向です。
固定資本減耗は、固定資産の減価分で、GDP分配面の一部でもあります。
GDP分配面 = 雇用者報酬 + 営業余剰・混合所得(純)+ 固定資本減耗 + 純間接税
固定資本減耗が多いという事は、稼ぎ出す付加価値(総付加価値)の中から、企業や家計に分配される分がそれだけ目減りする事を意味します。
電気・ガス・空調供給業や公務、情報通信業、製造業は労働生産性の高い産業として知られていますが、固定資産によって稼いでいる部分も多く、固定資本減耗を差し引けばそれだけ正味の生産性は目減りする事になります。
正味の生産性と言える労働者1人あたり国内純生産については、次回ご紹介します。
3. 労働者1人あたり純固定資本形成
今回は、経済活動別に見た労働者1人あたり純固定資本形成について見てみましょう。
労働者1人あたりで、固定資産残高が毎年どの程度増減したかを見る指標とも言えます。
図3 経済活動別 労働者1人あたり純固定資本形成
OECD Data Explorerより
図3が経済活動別の労働者1人あたり純固定資本形成です。
産業を絞って表記しています。
電気・ガス・空調供給業、公務、情報通信業が特徴的な動きですね。
特に電気・ガス・空調供給業は1990年代は1000万円以上も毎年固定資産残高が増え続けていた事になります。
近年では電気・ガス・空調供給業、運輸倉庫業、情報通信業はゼロ程度となっていますので、投資と減耗がちょうど釣り合う程度の投資が継続している事になります。
一方で、公務はややプラスで推移していますので、固定資産残高が増え続けている事になります。
道路は運輸・倉庫業、学校等は教育などに分類されますので、公務には防衛、消防、警察などの維持・発展のための投資が多いという事なのかもしれません。
一方で製造業はゼロ近辺で横ばいが続いています。
製造業は1人あたりの投資が増えているわけではなく、一定水準で維持され続けているような状況と言えそうです。
4. 労働者1人あたりの投資・減耗の特徴
今回は、経済活動別に見た労働者1人あたりの総固定資本形成、固定資本減耗、純固定資本形成についてご紹介しました。
公共投資や情報・通信分野と密接な関係にある経済活動では、1990年代に非常に高い水準の投資がありましたら、近年では目減りしています。
固定資本減耗は、長期的に均されていますのでかつて投資して蓄積した残高により、高い水準の固定資本減耗が続いている事になります。
製造業は投資が多いですが、減耗も多く、差引の純固定資本形成はほぼゼロで水しています。
投資が増えていないながらも、一定水準の固定資産残高が維持されている状況と言えそうです。
物価が上昇するようになり、今後投資と付加価値増加の関係に繋がっていくのか、大変興味深い観点ではないでしょうか。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年3月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。