インフレ税の定着を狙う
トランプ米大統領の予測不可能な政治手法に、世界は振り回されています。経済の不確実性は高まっても、インフレ状態がかなり続きそうです。世界が振り回されている中で、財政危機に頭を痛めている日本政府は「物価が上がれば、税収が増える。いい湯加減だ」と、内心はほくそ笑んでいると考えます。
石破政権が財政危機対策で消費税率、所得税率、法人税率を上げとしようものなら、野党はおろか与党からも「そんなことをしたら選挙に負ける」と、反対の総攻撃をうけるでしょう。ですから税率を上げずに、税収が自然に増える今の状況は、本心では歓迎なのでしょう。そう口にしないだけです。

石破茂首相 首相官邸HPより
特に加藤蔵相の「再びデフレに戻る懸念が払拭されない限り、デフレ克服を宣言すべきでない」との発言は「金利引き上げを当分、したくない」の意味だと私は解釈します。「トランプ関税」で28日、株が急落し、円相場も一時、1㌦=151円の円安になりました。物価上昇というかインフレは長期化します。
25年度予算案をみると、税収は78兆4400億円で、6年連続で史上最高を記録しました。消費税24兆9000億円、所得税23兆2800億円、法人税19兆2400億円です。消費税率は10%ですから、1%あたり約2.5兆円です。「消費税撤廃」と叫ぶ野党、憂さ晴らしの「財務省解体デモ」が街頭を練り歩く現状では、消費税率の引き上げは絶望的です。
税率引き上げは「増税」といい、税率は据え置きでも税収が増えることは「増収」といいます。「増税」は無理でも「増収」には野党も抵抗しません。物価が上昇してくれれば、「増収」が実現します。消費税(税率10%)が変わらなくても、1000円のものが1100円に上がれば、消費税は10円(100円の10%)増えます。
消費税収は25年度は約25兆円ですから、物価が10%上がれば、消費税は10%(2・5兆円)増えます。もっとも8%の軽減税率の対象品目については、自然増収分は8%増の計算になるのでしょうか。
「物価上昇分を取り戻せ」という春闘で賃金が上がれば、勤労者らが払う所得税も増えます。物価が上がれば、企業の名目売上高が増え、法人税も増収となります。国債発行残高が1000兆円を超し、財政再建に取り組む政府にとって、物価高は大歓迎でしょう。
インフレ税という言葉がよく聞かれるようになりました。税率が変わらなくても、物価が上がれば、税収も上がる。インフレ税です。野党はなぜもっと問題視しないか不思議です。「財務省解体デモ」もインフレ税反対を叫んでいるのでしょうか。
消費者物価が3年以上も2、3%上昇し、生鮮食品を含めた総合指数では4%程度を記録しています。加算していけば、物価は10%は上昇しています。それでも加藤財政相が「まだデフレを克服していない」というのは、心の中では、税収が増えるインフレを歓迎しているからでしょう。
一方、石破首相は「強力な物価対策を打ち出す」といっています。石破首相は「物価対策が必要なインフレになっている」を考えている。閣内不一致です。さらに植田日銀総裁は「ぎりぎりまで物価動向を見極める」として、政策金利(0.5%)の引き上げを見送りました。そう言っているうちに、利上げのタイミングを逃してきたし、植田総裁も「財政問題を考えると、インフレ税もやむをえない」派でしょうか。
トランプ米大統領は、4月に関税を25%引き上げると宣言しました。輸出の主役である日本車メーカーの顔色は青ざめ、「トランプ関税」がその通り実施されれば、日本のGDP(国内総生産)は0・7%下がるとの試算もあります。関税引き上げはインフレ要因にもなります。今のうちなら「バイデンの後始末だ」との言い逃れができ、来年の中間選挙、4年後の大統領選挙に向けて、景気をよくしていこうとしている。そんな見方も嘘ではないでしょう。
米国という超大国に振り回されており、関税引き上げで物価は上がり、経済成長率は逆に下がる。つまりスタグフレーション(インフレと不況の同時進行)に進むかもしれない。
昔、戦時国債というのがありました。物価は昭和10年比で、22年に110倍、23年に190倍、24年に240倍になり、国債は紙くず同然となり、政府債務は帳消しになりました。2%以上の物価上昇が3年を超え、10年続けば、国債の実質価値は激減します。それが政府の狙いでしょうか。
そんなことをしても、日銀保有の国債残高は約580兆円で、その実質価値が棄損すれば、国庫納付金(税外収入)も減り、歳出を削減しなければならなくなります。こちらを立てれば、あちらが立たずです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年3月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。






