コメは値上がりし続けるのか、と聞かれたら「当面はそう思う」と答えます。今の市場価格やテレビなどの報道を見て自分の家にコメの在庫を持っておきたい仮需に支えられているからです。平たく言えば国民みんなが「米投機」状態ということです。この行方は今年の秋の収穫が見えてくる頃にわかるでしょう。仮に不作であれば更に価格は高騰してしまいます。
農林水産省
コメの価格問題は一種の社会問題と言ってもよいでしょう。日本の歴史の教科書でコメ不作で飢饉があった歴史をたどっているような気すらします。江戸時代にコメ作りが大きく進化し、米の主産地が東北地方にシフトしていきます。ところが時折起こる冷害でコメが取れない年が発生、これが大飢饉の原因です。故に日本のコメ作りは「寒さに強い」品種改良が主眼であり、今起きている「暑さに強い」という発想はないかと思います。
実際、ブランド米の多くは新潟、山形、宮城、秋田、更には北海道であって西日本産で著名なブランド米は兵庫や出雲など限られます。九州ではブランドの知名度アップのキャンペーンをしているぐらいです。ただ、東京の情報は東京をベースにしたもの故に東北、北海道のコメが目線に入りますが、西日本でも九州でも地元のコメを食べるのが基本だと理解しています。
我々が小さい頃は北海道で米が作れるというのは学校のテストでは不正解でコメ生産の北限は東北地方であったのです。コメの品種改良が進み、寒さに強いコメが北海道ブランドを育成したのですが、皮肉なことに日本全体が暑くなりこのままでは北海道がコメの主生産地になるのかもしれません。
仮に北海道でコメを主生産するならば思いっきり大規模機械化農業を取り入れ、ロボットにAI駆使での農業管理の最先端技術を導入し、生産コストを大幅に引き下げる努力をすれば日本のコメ市場も変わるのかもしれません。
もう一つのコメの生産と価格の問題は管理市場故であるということです。一番良い例えが電気です。電気は需要と供給が一致するように調整されています。余らせるわけにはいきません。ある意味極めて効率の良いビジネスなのですが、何かあればバランスを崩します。同様にコメ市場でも似たような発想を取り込んでいることがコトをややっこしくしているのではないかと思うのです。そして今までは不作の年でも曲がりなりに一定の価格の枠組みの中で収まったものの今回はそうは問屋が卸さなかった、ということだとみています。
要因は複合的だと思います。暑すぎると作柄には影響するでしょう。一方で消費が増えたとは思っていません。日本人の胃袋の数は変わらないのです。多少外国人観光客が増えたとしても昨年で3500万人。1人平均1週間滞在するとして人口数に直せば67万人程度。彼らが毎食米を食べることはまずないので影響は微々たるものなのです。むしろ、2024年には日本の人口は53万人の減少を記録しているわけで需要は減るぐらいの話なのです。
すると一部メディアが報じるように消えたコメがあるはずなのです。その消えた分はどこにあるのかです。この先もっと値上がりすると思っているコメ関係者がいればどこかに確保しているかもしれません。それも必ずしも特定の業者の倉庫に山積みされているというよりあちらこちらに分散している公算があります。極端な話、直販契約をしている農家にも多少、あるかもしれません。少しずつが積みあがった結果ではないかという気がします。
ところで輸出用のコメは順調に販売されています。中国ではかつてはチャーハン用としてパラパラになるような品種を好んでいました。ところが中国人の爆買いブームの際に日本の炊飯器がバカ売れし、そこで中国人がジャポニカ米に目覚めた可能性もあるでしょう。水分量が多く、ねちゃねちゃする日本のコメが旨いということに気がついたとすれば中国の爆食需要が支えとなり、輸出好調は裏付けられます。一応、輸出用は補助金の関係で国内向けとは厳密に区別されているとされます。ただ2024年の輸出実績は20年と比べ倍増になったと言っても46000トンに過ぎず、24年の日本全体の収穫の0.7%なのでごくわずか。個人的にはどうもこの数字が以前からしっくりきません。気のせいでしょうか?
ビジネスマインドから見ると国内需要はトレンドとしては下がる一方でも日本のコメは海外を中心に潜在需要はまだまだあるとみています。
一方、日本人の腹を満たすためにカリフォルニアからの輸入も急増しています。それこそ前年比数倍の勢いですが、カリフォルニアも突如の需要には対応できないと思います。今の5㌔4000円程度を考えるとカリフォルニア米の日本の消費者向け価格は3000円程度で提供できるはずでカルローズ品種でよければ問題ないでしょう。
日本の方はコメの品質についてはうるさいと思います。「せめてコメだけは」というわけです。だけど私のようにカルローズ種を30数年食べ続ければなんら違和感はないし、あとは焚き方で多少おいしくさせる方法はあります。焚く際の水はろ過水、かつては紀州炭を炊飯器の中に入れていました。焚くまでにコメを水に浸して最低1時間といった工夫をしても味は変わります。また日本で売っている高級釜を使うと味は確かに旨いと思います。飲食店の飯が旨いのは大量に炊くこともあります。つまり最終的に旨いかどうかは銘柄と共にそれを最大限引き出す努力をしたかどうか次第なのです。
日本米はブランド米として輸出できる品質を維持していますが、農水省にその姿勢があるとは思えないのです。あくまでも農家の生活を守り、生産調整をし、国内の需要を満たすのみ、またカロリーベースの食の自給にこだわり過ぎています。その一方で米農家も会社組織が増えている中でビジネスとして取り組むことでコメ生産と需要開拓を含め、根本を変えていく必要があると思います。農水省にもビジネスマインドを取り込むことが必要で、昭和の食糧政策的な発想だけではいかん、ということでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年4月8日の記事より転載させていただきました。