ドイツのキリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首は想定外の出来事が生じない限り、5月6日には連邦議会で正式に首相に選出される予定だ。そのメルツ氏は13日、公営放送の番組の中でドイツ軍が誇る巡行ミサイル「タウルス」のウクライナ供与に積極的な発言をした。ただし、同党首は「欧州のパートナーの承認があれば」という条件を付けた。
CDUメルツ党首インスタグラムより
同ニュースが報じられると、ルクセンブルクで欧州連合(EU)外相会合に出席していたEUの外交安全保障上級代表のカラス氏は、ドイツのタウルスがウクライナに引き渡されることを歓迎し、「ウクライナが自国を防衛し、民間人が死ななくて済むよう、私たちはもっと努力しなければならない」と述べている。
メルツ氏は野党指導者時代からウクライナへのタウラス巡航ミサイルの供給には前向きだった。同氏は「我々自身がこの戦争に介入しているのではなく、ウクライナ軍にそのような兵器を提供しているのだ。ウクライナ軍は防御に追われ、相手側の攻撃に反応するだけだったが、ロシアが併合したウクライナのクリミア半島とロシアを結ぶ最も重要な陸上交通路のケルチ橋を破壊することも可能だ。プーチン大統領が弱みを見せたり和平の申し出に前向きに応じたりするとは思えないが、彼はこの戦争の絶望性をいつかは認識するはずだ。そのためにも、我々はウクライナを支援しなければならない」と述べている。
予想されたことだが、メルツ氏の発言に対してロシアから脅迫が届いた。クレムリンの報道官ドミトリー・ペスコフ氏は、「メルツ氏の発言はウクライナの戦争を激化させることになる」と警告した。ロシアの元大統領ドミトリー・メドベージェフ氏はXで、「今、メルツはクリミア橋への攻撃を提案した。よく考えろ、ナチス!」と罵声を飛ばしている。
メルツ氏の発言に対して批判はロシアだけではない。ドイツの社会民主党(SPD)の国防相代行ピストリウス氏はハノーバーでのSPDの会議で、次期首相となるメルツ氏が欧州のパートナーと連携して巡航ミサイル「タウルス」をウクライナに配備する計画について懐疑的な見解を示している。
欧州では英国とフランスが既に同様の巡行ミサイルをウクライナに供与しているが、英国の「ストームシャドウ」とフランスの「スカルプ」と呼ばれる巡行ミサイルはタウルスより精度が低く、射程距離も大幅に短い。タウルスの射程距離は500キロだ。
退任するSPD首相オーラフ・ショルツ氏は、タウルスの納入がドイツを戦争に引きずり込む恐れがあると懸念し、ウクライナやフランスから供与への圧力があった時も一貫して拒否してきた経緯がある。
ドイツがその主用な武器システムを紛争地へ供与する場合、他の欧州諸国とは異なり、国内外で議論が常に飛び出してくる。たとえば、ドイツの主用攻撃型戦車「レオパルト2」のウクライナへの供与問題の時もそうだった。「レオパルト2」の供与を躊躇するドイツに対し、欧米諸国から圧力が強まった。最終的にはショルツ首相がバイデン米大統領(当時)との協議の末、アメリカとドイツ両政府は2023年1月25日、ウクライナに戦車を供与すると発表した。アメリカは「M1エイブラムス」31台を、ドイツは「レオパルト2」14台をそれぞれ送ることで決着したわけだ。
タウルスの場合、英国とフランス両国と話し合って決めることになる。メルツ氏がロシアとディールするトランプ米大統領とタウルス問題で協議するか否かは不確かだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年4月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。