マネーの話をするとどうしても株式市場の話が主流になります。それだけ参加者が多いということがあるのでしょう。かつて話題になったマネーの達人の原点に戻ると「資産三分法」と称し、投資は1/3に分けてリスクヘッジしながら増やしなさい、ということでした。現金及び同等物、株式や投資信託、不動産の3つをほぼ均等に持つことでリスクヘッジをするというものです。ただ、この投資方法はそもそもに無理があるし、私はそんなに意味があるとは思っていません。
ポイントは時間軸であり、その3つの組み合わせは常に入れ替えなければ意味がないのです。例えば金利水準が低い時はいくら現金やその同等物を持っていても増えることはありません。日本はその典型でした。その際、例えば株式で配当率が3-5%程度の銘柄をずっと持っていれば預金利息の何十倍、何百倍の配当が得られたはずです。つまり1/3方法に縛られると機会損失が生じてしまうのです。
また不動産の1/3というのも無謀な話です。北米で20年前以上でかつ、ある程度の資金を持っている人ならできたかもしれません。が、今では不動産を買うにも20年以上のローン漬けになり、日本の場合は木造住宅なら完済後には減価償却満了で上物の価値はほぼゼロになります。つまり価値は生まないのです。
つまり資産三分法は実質的に機能しないともいえるのです。代替案ですが、かつてはやったゴルフ場会員権や絵画取引、非上場企業の株式などは特殊なので除外します。ある程度の市場性を含めて考えてみましょう。
マネーの話をする場合アルタネート(alternate、代替)すべき投資先を考える必要があります。その中で皆さんに比較的なじみがあるのが金だろうと思います。聞いてはいるけど不安というのがビットコイン、そして石油、銅になるとさっぱりわからん、ということかと思います。今日はそのあたりに絞ってみます。

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ビットコインを除く3つはいわゆる商品取引の分野になり、その世界は結構深いものです。私は鉄鉱石は今でもやっているし、以前はウラニウムを良く手掛けたものです。ただし、その手掛け方は直接金の延べ棒やイエローケーキ(ウラン精鉱)、あるいは原油を〇リッター買うわけでもありません。通常はその分野の企業への投資を通じて参加しているのです。
理由は商品相場に連動しやすい企業の株式売買なので売り買いがしやすいこと、商品相場にはつかない配当が企業ならば業績によって得られること、株価のボラティリティが商品そのものよりはるかに高く、利ザヤを抜きやすいことが上げられます。私が10年以上持ち続けている銘柄の一つにカナダの鉄鉱石の会社があり、OTC市場なので極めて地味で知られていませんが、配当は年間10%程度をずっと頂いています。日本に目を向けると例えばドバイ原油先物ダブルブルETNという銘柄がありますが、これなどは原油価格の動向を2倍のボラティリティで動かす銘柄で取引量はかなり多い銘柄ですが、素人向けの銘柄ではありません。配当もありません。
投資には基本的には年季が必要で、株式などに初めて参入した人が「ビギナーズラック」でウハウハするも、しばらく声を聞かないと思えば青ざめていたということもよくあります。それでも株式市場で精通すればそれは素晴らしいことです。ただ、ひとつ申し上げたいのは「餅は餅屋」という言葉通り、株式市場にはあまりにも広い業種のあらゆる銘柄が散らばっているのであちこちに目移りするように手を出すと失敗しやすくなります。それよりも得手とする限られた業種に絞り、ある程度、産業や業界に精通することで「株価の呼吸」を感じることが重要なのです。
なので、商品相場とかビットコインなどアルタネート相場に手を出す場合はまずは失敗してもよいぐらいの資金で練習を重ねることだろうと思います。
で、お題の相場の行方ですが、私はこれを業としていないので具体的にこれが上がるといったことは言えません。ただ考え方というのはシェアできると思います。
まず、商品相場の主流はドル建てなのです。もちろん、円建ての金相場やビットコイン相場もありますが、それは原則ドル建てを円に換算したもの。とすればドル相場が金とビットコインの相場を裏付けるとも言えます。ドルが安くなればそれらの相場は上がるということです。一般にはドルが安くなるのは金利が下がるとき、だとも言えます。
金についてはドル通貨との代替性をふくめ、引き続き強い相場を示してますが、私はこの数日で9割方、売却しました。残りも数日中に処分します。理由は金に代替を求める熱量がいったん満腹状態杯だとみているからです。あくまでも個人の判断です。
ビットコインについてはトランプ氏のかつての強い支持発言が「オオカミ少年化」しているため、大きな調整を余儀なくさせられています。ただし、世界ベースでビットコインへ投資をしやすい環境が整備され、多様な商品が出ているのでかつてのような打ち上げ花火的な下げ一方にはならないとみています。
ビットコインの採掘コストは環境問題にも直面し、飛躍的に上がっており、相場が下がり続ければ採掘できなくなるため、希少性は上がり、相場は上がるのです。ビットコイン相場の冷やし玉は実はビットコインの採掘者が相場を見て売り出すことが一因となっており採掘コストは金相場と同様、相場形成に極めて重要な意味を成し、そのコストは原則上昇傾向にあるのです。
原油相場は政治的で恣意的、銅相場は「経済の体温計」と申し上げておきます。原油はOPEC⁺による相場コントロールが行われており、そこにはロシアの懐具合が強く影響しています。今般の増産決定はロシア主導だったと思いますが、それはウクライナとの戦費捻出だろうと容易に想像できるでしょう。
一方、トランプ氏が原油についてアメリカ国内で「ドリル ベイビー ドリル(掘って掘って掘りまくれ!)」と吠えていましたが、あの時、アメリカの原油採掘者は冷たい顔をしたのです。「掘れるわけないだろう」と。理由は長くなるのでかつ愛しますが、原油相場などそんな簡単な仕組みではないのです。
銅は世界経済好転⇒生産増⇒銅の需要拡大⇒価格上昇というシナリオが基本形で、まさに経済の体温計のような意味を持っています。その中で銅相場が先週の3日間で15%近く下落したのですが、これはあり得ない価格形成であり、プロだけが参加する相場なのでボラが大きくなりやすいとも言えます。個人的には大口の中国経済が底打ちしているので底支えはすると思いますが、車が売れないと銅を使うワイヤーハーネスが出なくなるので痛手となるという面はあると思います。
投資環境という意味では今は最悪で、今般の関税を加味すると業績への影響がうんと先にならないと出てこないという意味で相場の本格的回復には時間がかかるかもしれないと思っています。「休むも相場」という格言もあります。あまり深追いしすぎて痛手を負わないようくれぐれもお気を付けくださいませ。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年4月16日の記事より転載させていただきました。