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いまは、活字離れの傾向が著しいと指摘する識者がいます。その根拠に、多くの調査結果では「本を読まなくなったこと」「出版不況」を活字離れの理由にしていますが、このような解釈には違和感を覚えます。
スマホで音楽を聴くときは別に、ゲームやマンガ、雑誌などは活字を多く含みます。文字を読まなくなったわけではありません。つまり、活字離れをしたわけではなく、活字媒体の利用状況が変化していると考えたほうがわかりやすいのでしょう。活字媒体の利用状況は、時代とともに変化しています。
かつては、書籍や新聞が情報収集や娯楽の中心的な役割を果たしていましたが、近年ではインターネットやスマートフォンの普及により、動画や音声などの非活字媒体の利用が拡大しています。そのため、活字媒体の利用時間が減少しているように見えるかもしれませんが、必ずしも「活字離れ」が進んでいるとは限りません。
また、活字媒体は、情報を正確かつ客観的に伝えることができ、思考力を養うことができます。
学校や仕事の現場で活字が使われなくなることは考えられません。活字媒体の利用状況は変化しているものの、活字媒体の価値は変わらず、人々の生活に欠かせない存在としてあり続けているのです。
いまから30年前、スマホはおろか、ケータイすら普及していない時代がありました。PCすら普及していない時代でも、生活に不自由さは感じませんでした。私たちは、これらのツールが普及するとともに、時間を割り当てるようになりましたが、これからは、読書の時間を割り当てればいいのです。活字離れなどは発生していません。
興味深いことに、世界的に見ると日本の読書率は決して低くありません。日本人の約60%が月に1冊以上の本を読んでおり、この数字は先進国の平均を上回っています。また、図書館の利用者数も減少傾向にあるわけではなく、特に児童書の貸出数は安定しています。
さらに、「ビブリオバトル」などの本を紹介し合うイベントが学校や企業で広がりを見せており、新しい読書文化が育まれています。書店の形態も進化し、カフェを併設した複合型書店や特定のジャンルに特化した専門書店など、体験型の場として再定義されています。
オーディオブックの急成長も注目すべき現象です。これにより、視覚障害のある方や多忙な人々など、従来は読書が難しかった層にも読書体験が広がっています。電子書籍との併用も増えており、一人の読者が同じ本を状況に応じて紙、電子、音声と形態を変えて楽しむ「ハイブリッド読書」も一般的になりつつあります。
あなたが、心を豊かにする1冊に出会えることをお祈りしています。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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2年振りに22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)