フランシスコ教皇の死を受け、バチカンで今月7日から次期教皇選出を決めるコンクラーベがシスティーナ礼拝堂で挙行される。ペテロの後継者を決めるコンクラーベには80歳未満の枢機卿が参加する。バチカンからの情報によると、252人の枢機卿のうち、80歳未満の枢機卿は135人だが、2人の枢機卿が健康問題を理由に欠席を届けているため、現時点では133人となる。そのうち、108人はフランシスコ教皇の在位12年間の時に任命された枢機卿だ。

コンクラーベが開催されるシステイーナ礼拝堂(2013年3月12日、オーストリア国営放送の中継から撮影)
欧米メディアでは、約14億人の信者を抱える世界最大のキリスト教派のローマ・カトリック教会の最高指導者に誰が選出されるかで多くの記事が飛び交っている。ただ、コンクラーベの場合、有力候補者と囁かれた枢機卿が次期教皇に選出されるケースは少ない。前回のコンクラーベ(2013年)では南米出身のブエノスアイレス大司教のホルへ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿が第266代教皇に選ばれたが、当時、ブエノスアイレス大司教の名前を知っていた聖職者は多くはいなかった。冷戦時代、ポーランドからヨハネ・パウロ2世が選ばれた時は世界が驚いた。バチカンでは「コンクラーベには神が働く」と言われているゆえんだ。
次期教皇に誰が選ばれるかを考えていた時、ワシントンから「トランプ米大統領がローマ教皇ポストに関心」というニュースが流れてきた。バンス副大統領はローマ・カトリック教徒だが、トランプ氏は福音派教会の信者だ。トランプ氏はローマ教皇になる前にカトリック教徒に改宗しなければならない。米国憲法を改正して3期目の大統領ポストを視野に入れているといわれるトランプ氏だから、改宗は大きな障害ではないかもしれないが、第47代米大統領が第267代のローマ教皇になる野心があるとは思わない。
次期教皇に誰を望むかとの質問に対し、トランプ氏はホワイトハウスで記者団に「教皇になりたい。それが私の第一希望だ」と述べた後、「アメリカには優秀な枢機卿がいる」と述べ、ニューヨーク大司教ティモシー・ドラン枢機卿のことを示唆している。保守派のドラン枢機卿は、2013年に既に当時の教皇ベネディクト16世の後継候補と考えられていた。75歳のドラン枢機卿は、1月に行われたトランプ大統領の就任式で開会の祈りをした聖職者だ。
本題に入る。次期教皇像を追ってみた。カトリック教会では保守派と改革派が主導権争いを展開させている。例えば、フランシスコ教皇が改革派だとすれば、次は保守派枢機卿(例えば、ハンガリーのぺテル・エルデ枢機卿)から、といった見方だ。保守派の学者教皇ベネディクト16世後に改革派で牧会派のフランシスコ教皇が選ばれたようにだ。ただし、選挙権を有する80歳未満の枢機卿の大多数が過去12年間、フランシスコ教皇によって任命されているという事情を考慮すると、次期教皇も改革派枢機卿からという説が合理的だ。
ただし、保守派と改革派の対立を回避するために調停役の枢機卿にもチャンスが出てくる。国務長官を務めるバチカン・ナンバー2のパロリン枢機卿(イタリア人、70)はその代表的な枢機卿だ。フランシスコ教皇の遺産を相続するという意味で、同じイタリア人のマッテオ・ズッピ枢機卿の名前も挙がっている。
次に枢機卿の出身地域を見てみよう。135人の枢機卿の内訳は、欧州出身が53人で依然、最大勢力を誇る。それに次いでアジア教会の23人、アフリカ教会18人、南米教会17人、北米教会16人、そして中米とオセアニア教会が各4人の順序となる。
枢機卿の勢力図からみれば、次期教皇は欧州教会出身の枢機卿が有利のように見られるが、その可能性は多くはない。その理由は、①ベネディクト16世がドイツ教会出身だったばかりで、カトリック教会内では次期教皇は欧州教会以外からという声が強い、②欧州教会ではここ数年、聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発し、教会への信頼性が大きく揺れている。その結果、信者の教会離れが加速している、等が挙げられる。
そこで、信者数が増えているアジアとアフリカ教会から次期教皇が誕生しても可笑しくないと言える。例えば、フィリピンのマニラ大司教区のルイス・アントニオ・ゴキム・タグレ枢機卿(67)だ。また、アフリカからはコンゴのキンシャサ教区のフリドリン・アンボンゴ・ベスング枢機卿(65)の名前が出ている。
第3のカテゴリーは年齢だ。ヨハネ・パウロ2世が27年間と長期在位だったこともあって、バチカンでは長期政権が考えられる若い枢機卿には抵抗が強い。コンクラーベで選出される枢機卿は70歳台がいいという暗黙の了承がある。その点、声望のあるエルサレム・ラテン典礼総大司教のピッツァバッラ枢機卿は60歳だ。若すぎる。フランシスコ教皇の場合、選出された時は76歳だった。ヨハネ・パウロ2世後に就任したドイツ人のべネディクト16世も78歳だった。同16世の場合、本格的な教皇選出までのショートリリーフ役として選ばれた事情がある。
最後は神の関与だ。枢機卿が様々な思惑や外交的な見通しから次期教皇を選ぼうとしても、最後は神がペテロの後継者を決めるというのだ。人知を超え,神が教会を指導するという一種の信仰告白だ。
フランシスコ教皇が前回のコンクラーベで多数の枢機卿の心を捉えたのは、コンクラーベ開催前に開かれた枢機卿会議で、「教会は病んでいる」と強調し、サロン風の教会ではなく、外に飛び出す教会になるべきだと檄を飛ばしたからだ。それでは、トランプ氏にはローマ教皇になるチャンスは現実的には皆無だが、トランプ氏のキャッチフレーズ、メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(MAGA)に倣って、メイク・バチカン・グレート・アゲインと叫ぶ枢機卿が出てくれば大きな波乱を呼ぶだろう。

Massimo Merlini/iStock
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年5月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。