アクティビストが悪とは限らない :「昔のやり方」は今更通じない株式市場

アクティビスト=物言う株主=うるせぃやつら=なるべくかかわらないという認識は未だに一般的かと思います。かつては黒船的なイメージで海外の投資家が日本の企業の株式を取得してズケズケと土足で入ってくるというニュアンスの報道が主流だったことからそのようなイメージを植え付けられたこともあるでしょう。

VPanteon/iStock

私はだいぶ前ですが、村上世彰氏の「生涯投資家」という著書を読んだことがあります。村上氏といえば国内版アクティビストとして名をはせ、ご本人が有罪判決を受けた経緯もあり、よくない人という一方的な印象があったのですが、この読後に報道が犯した罪もあるな、と感じたのです。もちろん、著書には村上氏自身の弁護的な部分も大いにある訳ですが、彼なりの論理構成があり、初期のアクティビストとして粗削りながらもやはり優秀だったのだと思います。その意志を引き受け、より精度を高めて活躍するのが村上絢氏と村上フレンツェル玲の姉妹で特に絢氏はフジテレビの筆頭株主として6月の株主総会に向けてどのような動きをするのか注目されています。またインフロニア(旧前田建設工業など)が三井住友建設にTOBを仕掛けるようですが、三井住友建設の約3割の株を村上氏のグループで所有しています。

村上氏も絡んだニッポン放送とフジテレビのゆがんだ関係とは何だったのか、といえば根本的には昔はラジオが主流でテレビはなかったのです。だからラジオ会社の事業の一環でテレビ事業を始めたらいつの間にか子が親をはるかに凌駕する状態になったという話です。ただ、それまではそれらいびつな親子関係に対して誰かが何かを言う社会の空気は醸成されていなかったのだと思います。村上氏や堀江氏がそれを指摘したからこそ、市場に変化の兆しができたのです。

他にもかつてあった有名どころでは富士電機と富士通の関係がありました。これも富士電機が富士通の親会社でしたが、親子逆転劇が起きる中、何段階かのステップを経て今では親子関係が切れています。

先般、豊田章男氏が豊田自動織機とトヨタとの複雑怪奇な親子上場を解消すべく豊田自動織機を非上場化する方針を発表、豊田織機の株価が暴騰しました。豊田氏は唐突に思ったわけではなく長年指摘されてきたいびつな保有形態や持ち合いといった不透明感に対し、株主総会も近いことから踏み込む時期に来たと判断したのでしょう。

日本で慣習的にあった株式持ち合いという仕組みは双方が安定株主になることで何があってもお互いに支えあうという「寄合い」的な発想でした。これがより国際的に開かれた株式市場において多くの投資家と向かい合う姿勢に変わってきました。ここで選択肢ができたわけです。向かい合う為には会社はよりディスクローズし、約半数の社外取締役は経営面において一般投資家が知りえないような詳細な経営状況について第三者的意見を述べ、企業のガバナンスをより崇高なものにさせるのです。それが嫌なら非上場化する、ということです。

日本の企業には上場により資本調達をするというより「上場企業」というネームバリューや上場益狙いといった目的論がずれてしまっている企業もあります。上場が手段ではなく目的となり、上場したら創業株主がさっさと株を売り抜け、富を得、シリアルアントレプレナー(連続起業家)という名のもとに2匹目や3匹目の上場益というドジョウを目指す輩もいるわけです。

企業によっては多額の現金を抱え込み、本来であれば投資に仕向けなくてはいけないものを「投資先がない」という理由で言い逃れてきた企業もあります。かつての前田道路のケースはその典型で紆余曲折して結局、前田建設工業が支配し、その後、上述のインフロニアの傘下にぶら下がる形に移行しました。

アクティビストが目指すのは株価上昇に伴う莫大な利益と説明されることが多いのですが、それをボランティアでやる人はいないわけでどこかに果実を求めるのは妥当だと思うのです。むしろ、時代遅れの慣習や企業内の独特な問題、資本効率の悪さ、いびつな資本関係などは投資家から見れば疑惑の目で見られやすいのです。そして今や東京株式市場の大半は機関投資家と海外投資家によって支配されている中、「昔のやり方」は今更通じないとも言えます。

その点からも私はアクティビストが悪とは限らないと考えるわけです。もちろん、株価という色物がそこにある以上、アクティビストも疑惑の目で見られやすいことは確かです。ただ、逆に言えばアクティビストに目をつけられる経営をしている企業がまだまだたくさんあるとも言えるのです。アジアの盟主を目指す日本としてはリーダーとしての誇りを持てる企業体制にして欲しいと思うわけです。

トヨタの豊田自動織機の非上場化の検討は日本を代表する企業がその向かう道を示したという点でとても評価できるし、フォロワーが続くとみています。

では今日はこのぐらい。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月15日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。