自民党も見送った厚生年金積立金の流用を立民党が提案して、年金改悪法案をさらに改悪する修正協議が行なわれている。この奇怪な法案の背景には、年金というネズミ講がボロボロになっている現状がある。
「100年安心」のはずの年金が20年で破綻した
なぜ厚生年金を流用するのか。それは国民年金の赤字を穴埋めするためだ。国民年金は保険ではなく、金持ちも貧乏人も月額1.7万円とられる超逆進的な人頭税なので、当初から未納が多かった。
今は八代尚宏氏の指摘するように、国民年金(1号被保険者)の保険料納付率は44%に下がり、半分以上が未納・猶予である。特に就職氷河期世代は50代になり、彼らがあと10年で退職するころから800万人の無年金老人が出てくる。これをすべて生活保護にすると、一般会計で20兆円の赤字になる。これも現役世代の負担だ。
それを避けるために「基礎年金を底上げ」するというのが厚労省の謳い文句だが、そのトリックがマクロ経済スライドの調整期間の一致である。マクロ経済スライドは2004年に「100年安心」というキャッチフレーズで始まった年金の減額である。
ところがデフレのとき減額しなかったため、毎年7兆円も過払いになり、20年でもたなくなった。このままでは年金制度が破綻するので、2057年まで減り続ける基礎年金の減額を2036年で止め、その分を年金積立金65兆円の流用で埋めるのだ。
毎日新聞より
厚生年金積立金を国民年金に流用して大増税する
おかげで積立金は2036年までになくなるので、その後は国庫負担65兆円で基礎年金の赤字を埋める。これも現役世代の負担だから、100年間で合計137兆円の負担増になる。
厚労省の資料
これは合計特殊出生率が(最悪ケースでも)2070年に1.13という2024年の年金財政検証の推定にもとづいているが、東京の出生率は2023年に0.99になった。つまり実際の負担増は137兆円よりはるかに大きくなり、今後も現役世代の負担は増え続ける。
これを解決するには保険料の納付を65歳まで延長し、支給開始年齢を平均寿命の84歳にすればいいが、それはとても政治的な合意が得られない。また無年金の生活保護の問題は解決できない。
税を財源とする年金の「抜本改革」が必要だ
このような矛盾が次々に出てくるのは、超高齢化社会で賦課方式の年金制度を100年後まで続けようとしているからだ。これは人口増加を前提とした年金ネズミ講であり、人口が減少すると破綻することは目に見えている。
抜本改革としては、基礎年金を消費税に置き換える最低保障年金が民主党政権で提案されたが、年金官僚が葬った。彼らの最大の利権である年金を財務省に渡したくないからだ。これを今も主張しているのは、河野太郎氏だけである。
最大の問題は厚生年金の2階部分をどうするかだが、これは民間の参入を認めるしかない。今でも大企業のサラリーマンは厚生年金とiDeCoの2本立てで積み立てているので、厚生年金を任意加入にすればいいのだ。
そうすると「払い損」になる45歳以下や年収500万円以上は厚生年金から脱退し、年金財政が破綻する。それを避けるために、こんな複雑な制度をつくっているのだ。だが年金制度を破綻させないために、現役世代の生活を破綻させるのは本末転倒である。
そもそも公的年金は必要なのか。ネズミ講は、子ネズミがどんどん増えた高度成長時代にはうまく行ったが、子ネズミが減ると破綻する。これ以上、ネズミ講を延命するのではなく、超党派で抜本改革を考えるべきだ。