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現代のビジネス環境では、短期的な利益を追求するモデルが目立ちがちです。しかし、本当に持続可能な成功を収めるためには、江戸時代から伝わる「三方よし」の精神が今も色あせない知恵として輝いています。
「人生中盤からの成功戦略 お金・仕事・人間関係に困らないコツ」(岡崎かつひろ 著)かや書房
「三方よし」の法則とは?
「売り手よし、買い手よし、世間よし」というこの理念は、SNSや派手な広告に頼らずとも、大規模な講演会を成功させる鍵となると岡崎さんは言います。
近江商人の商売哲学として知られる「三方よし」は、単なる歴史的な概念ではなく、現代ビジネスにも適用できる普遍的な原則です。1000人を集めた講演会の事例からは、この原則がいかに効果的に機能するかが明らかになります。
まず「売り手よし」の視点では、講演会主催者として得られるメリットは明確でした。書籍販売の促進という直接的な利益に加え、知名度や実績の向上という長期的な資産も構築できました。ビジネスにおいて、目に見える短期的な利益と将来的な価値の両方を考慮することの重要性を示しています。
「買い手よし」の実現は、どんなビジネスでも根幹となる部分です。参加者が支払う参加費以上の価値を提供することで、単なる取引を超えた満足感を創出しました。具体的には、実用的な学びや気づきを提供することで、参加者は金銭に換算できない価値を持ち帰ることができました。
注目すべきは「世間よし」の視点です。現代では「社会的責任」や「持続可能性」として語られることが多いこの側面は、ビジネスの長期的な成功に不可欠です。
人的ネットワークの力
注目すべきは、1000人規模の集客をSNSや広告に頼らずに達成した手法です。これは現代のデジタルマーケティング全盛時代において、あえて原点回帰とも言える戦略と言えるでしょう。
さらに、それぞれのネットワークを活用する方法は、単なる数合わせではなく、各協力者にも講演会で本を出版する機会を提供するなど、互恵的な関係構築を基盤としていました。書籍販売数の増加、協力者へのメリット提供、出版社の信頼度と業界内での影響力向上という、まさに三方よしの好循環が生まれたのです。
「三方よし」の哲学は、ビジネスだけでなく個人の資産形成にも応用できます。金融庁の調査によると、日本人の約25%が緊急時のための貯蓄を持っていないという現実があります。これは「自分よし」の視点さえも欠いた状態と言えるでしょう。
日本経済新聞の調査では、40代以上の約35%が「キャリア中にリストラや大幅な給与カットを経験した」と回答しています。このような予期せぬ事態に備え、生活費の少なくとも3ヶ月分(個人事業主や起業家の場合は半年分)を「守りの資産」として確保しておくことが、自身と家族を守る「自分よし」「家族よし」の選択となります。
「三方よし」の知恵
デジタル時代においても、「三方よし」のような互恵関係に基づく原則は決して色あせないということです。ビジネスにおいても資産形成においても、短期的な利益や自分だけの得を追求するのではなく、関わる全ての人や社会にとって価値ある選択をすることが、持続可能な成功の鍵となります。
資産形成は一朝一夕でできるものではありません。焦らず、コツコツと、そして何より「自分自身の知識」に投資することから始めることです。お金持ちの人々が当たり前のように実践している「お金の哲学」であり、「三方よし」の現代における実践方法なのです。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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