これがロシアの提示した「覚書」の全容だ:ウクライナ側に全面降伏を要求

トルコの国際都市イスタンブールで開催されたロシア・ウクライナ直接協議の第2回目は2日、1時間余りで終了した。メディアの報道によれば、①ロシアとウクライナ側が覚書を提示、②新たな捕虜交換で合意、③6月末に3回目の協議を開催すること、の3点で合意したという。停戦条約の内容では双方の隔たりが大きく、実質的な成果はなかったもようだ。

ロシアのプーチン大統領、クレムリン公式サイトから

ロシア側(メジンスキー大統領補佐官)がウクライナ代表団(ウメロフ国防相)に提示した3ページの覚書の全容はロシアのメディアが報道したばかりだ。それを受けて、ドイツ通信(DPA)が発信した「覚書」の全容を、以下まとめた。明確な点は、ロシア側の覚書はロシアの全ての願望を改めて提示したもので、譲歩する姿勢は見られず、ウクライナ側に全面降伏を要求するものだ。

まず、モスクワは30日間の停戦条件として、2つの選択肢を提示している。第1の選択肢は、現在ロシア軍が部分的にしか支配していない、モスクワに併合されたウクライナのルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの各州からウクライナ軍の完全撤退だ。

現在、ロシア軍はルハンスク州のほぼ全域、隣接するドネツク州の約70%、ヘルソン州とザポリージャ州の約3分の2を支配している。数十万人の住民を抱える州都ヘルソンとザポリージャは、依然としてウクライナの支配下にある。

停戦の第2の選択肢は、現在の前線における敵対行為の終結だ。キーウは部隊動員を停止し、外国からの武器の国内への搬入を停止すること、これには、西側諸国による諜報データの提供も含まれる。停戦は、今後設置される共同センターによって監視する。ウクライナはまた、ロシア国内での妨害行為の停止を保証すること、そしてウクライナは戒厳令解除後100日以内に選挙を実施することだ。一方、ウクライナ側は真の和平交渉開始の前提条件として、モスクワに対し、30日間の無条件停戦を繰り返し要求している。

次に、和平合意の条件として、第1に、クリミア半島、ドネツィク、ルハンシク、ヘルソン、ザポリージャの各州がロシア連邦の一部であることをウクライナが国際的に拘束力のある形で承認することを要求している。ウクライナ指導部は、違法な併合を常に断固として拒否してきた。

12項目のうち第2番では、ロシアはウクライナに対し、中立性と非同盟のコミットメント、すなわちNATO加盟の放棄を要求している。その他の項目は、ウクライナの非核兵器状態の確認とウクライナ兵の人数制限に関するものだ。モスクワはまた、民族主義的な軍事組織と国家衛兵の解散も要求している。さらに、ウクライナには賠償を受ける権利の放棄を要求している。

また、紛争の永続的な解決のため、モスクワはロシア人およびロシア語話者の少数民族の権利の保護と、ロシア語の公用語としての承認を要求している。モスクワの観点から、キーウは全ての制裁の解除と外交関係の再開にコミットすべきである。この文書には、ウクライナを経由してヨーロッパへのガス輸送の再開も含まれている。意向表明では、和平合意は署名後、法的拘束力のある国連決議によって承認されるべきであるとされている。

以上、DPA通信が発信したロシアの「覚書」の内容だ。クレムリンがウクライナへの全要求を明記したパラード、といった感じだ。プーチン大統領自身ですら、上記の内容が全て受理されるとは考えていないだろう。プーチン氏が自身のナラティブに基づいて全ての要求を実現しようとするならば、ウクライナの完全占領しかなくなる。

プーチン氏にはトランプ米大統領から利害が対立する相手とのディ―ルのやり方を学んでほしい。交渉の初めには最大の要求は当然かもしれないが、最終的には妥協と譲歩が不可欠となる。ロシア・ウクライナ間の第3回の直接協議ではその妥協と譲歩をまとめた「覚書」を提示してほしいものだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年6月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。