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新卒採用は、毎年同じ脚本で上演される茶番劇です。企業は「多様な人材を求めています」と言いながら、実際は同じような大学の同じような学生を採用し、学生は「御社の理念に共感しました」と心にもないことを言います。
新卒採用という茶番劇の真実
採用担当者は去年と同じ質問をして、去年と同じような答えに頷いている。この繰り返しこそが、日本の新卒採用の本質なのです。
新卒採用関連の媒体を読むと、各社の採用意欲が高まっているという景気の良い記事が並びます。「人物重視」「ポテンシャル採用」などと美辞麗句を並べていますが、企業の本音は違います。結局のところ、最も重視されているのは学歴です。
特に最近は「学力重視採用」への回帰が顕著になっています。面接で見分けられない人物的素養よりも、大学名、成績、SPIなどの数値化できる指標に頼るのは、採用担当者の保身としては当然の選択かもしれません。
企業が学歴を重視する本当の理由は次の通りです。まず、有名大学の学生を採用しておけば、少なくとも「大きな失敗」はしないという消極的な安心感があります。次に、大手企業に根強く残る学閥の存在です。採用実績校から外れた学生は、どんなに優秀でも門前払いされることが珍しくありません。
そして最も重要なのは、採用担当者の評価基準です。「今年は東大10名、旧帝全体で過半数を超えました」と報告すれば上司は満足しますが、「人物重視で無名大学から採用しました」では評価されないのが現実です。
自己分析という時間の浪費について
大学のキャリアセンターでは、高額な謝礼を払って専門家を招き、自己分析セミナーを開催しています。「あなたの強みを発見しましょう」「自分軸を見つけましょう」といった甘い言葉で学生を誘います。しかし、はっきり申し上げましょう。22歳やそこらで「自分の軸」なんて見つかるはずがありません。
多くの学生が必死に自己分析をして導き出す「強み」なるものは、せいぜい「コミュニケーション能力があります」「リーダーシップがあります」「継続力があります」といった、判で押したような月並みなものばかりです。面接官は一日に何十人もの学生から同じような「強み」を聞かされ、内心うんざりしているのが実情です。
そもそも、本当に突出した強みがある学生なら、自己分析などしなくても周囲が放っておきません。全国大会で優勝した、起業して成功した、特許を取得した、といった客観的な実績があれば、それが強みです。「サークルの副部長として頑張りました」程度の経験を、さも特別な強みのように語るのは、誇大妄想に他なりません。
理想と現実のギャップを埋める戦略
ここまで新卒採用の「不都合な真実」を述べてきましたが、だからといって諦める必要はありません。むしろ、現実を直視することで、より効果的な戦略を立てることができます。
就職活動は理不尽なものです。能力があっても落とされることもあれば、たまたま面接官との相性が良くて受かることもあります。これを「ご縁」などという美しい言葉で片付ける人もいますが、要は運の要素が大きいということです。
だからこそ、変に気負う必要はありません。「一生を決める」などと大げさに考えず、「最初の就職先」程度に捉えておけばいい。実際、新卒で入った会社に定年まで勤める人は、もはや少数派です。転職が当たり前の時代に、最初の会社選びに神経質になりすぎるのは時代錯誤とも言えます。
最後に一つだけ。就職活動で全滅しても、人生が終わるわけではありません。既卒での就職、起業、フリーランス、海外就職など、道はいくらでもあります。新卒採用という日本独特のシステムに振り回されすぎず、もっと広い視野で自分のキャリアを考えてください。それこそが、乗り切る最良の心構えかもしれません。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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