年金法改正案は自民・公明・立民3党が審議1日で衆議院を強行突破したが、今週に入ってSNSで怒りの声が爆発した。
「国民年金は基礎年金の5%」と錯覚した長妻氏
反響の大きさに驚いたのか、今回のドタバタ合意を仕掛けた長妻昭氏は、この法案を「現役世代厚生年金カット防止法案」という意味不明の名前で呼んで解説をしているが、これが間違いだらけであきれた。
まず図1がおかしい。「基礎年金受給者の95%の上には厚生年金が乗っており」というのは間違いで、厚生年金加入者はすべて基礎年金加入者(第2号被保険者)である。
図1 長妻氏の間違った図
この図の「国民年金5%」という数字は、厚生年金の加入期間が短い場合や年金記録の不備などの例外で数%しかない。彼が何度も引き合いに出す氷河期世代の非正規労働者(国民年金加入者)は、この図のどこにいるのだろうか?
実際の国民年金の第1号被保険者(自営業者など)は1387万人、第3号(専業主婦など)は686万人で、合計2073万人。基礎年金6745万人の30.7%である。この第1号に氷河期世代が多い(図2)。
一般会計の「増税70兆円」が抜けている
長妻氏の計算だと厚生年金≒国民年金だから、今回の法案は厚生年金の2階の年金を1階に移動するだけで、損する人はほとんどいない(たかまつなな氏も同じ計算違いをしていた)。しかし厚生年金積立金は、基礎年金の3割を占める国民年金加入者に流用されるのだ。国民年金加入者は、保険料なしで年金が3割増える。
この基本的な計算を間違えているので、ここから先の長妻氏の議論はすべて間違いだ。特にひどいのは、厚生年金受給額が減るのは63歳以上だけで、それ以下の世代はみんな得するという図3である。
これは社会保障特別会計だけの数字で、一般会計から投入される国庫負担70兆円が抜けている。これを補うと、図4のようになる。
つまり今回の法案は「現役世代厚生年金カット防止」どころか、国民年金受給者は全員が大幅にプラスだが、厚生年金受給者は63歳以上はマイナスで、将来の増税はすべて現役世代が負担する。国民年金受給者は得するが、厚生年金受給者は大きく損するのだ。
長妻氏は「ミスター年金」と呼ばれているので、本人も周囲もこの致命的な間違いに気づかなかったのだろう。立民の議員もこの間違った図をSNSで拡散している。「99.9%の受給額が増える」という厚労省の嘘を鵜呑みにした長妻氏の責任は重い。
今回の年金法改正案は、現役世代のサラリーマンが大きく損する現役世代手取りカット法案である。この計算違いにもとづく年金法改正案は廃案とし、参院選後の臨時国会であらためて時間をかけて審議すべきだ。