韓国大統領選で革新系の「共に民主党」の代表だった李在明氏が得票率49.42%で事前予想通り、当選しました。個人的にはもっと大差がつく決着になるかと思いましたが、保守の候補者だった金文洙氏が41.15%の得票率と意外と数字を伸ばしたのが印象的でした。
李在明氏インスタグラムより
韓国の大統領選など興味ないとおっしゃる方も多いと思うので切り口を少し変えて考えてみたいと思います。ずばり大統領制度は議院内閣制とどう違うのか、そしてアメリカや韓国の大統領制が与えた影響とは何かをまず考えてみたいと思います。
大統領制と言ってもひとくくりにはできないのがこの制度であります。制度だけ見ても連邦大統領型(アメリカ)、共和制(フランス)、連邦共和制(ドイツ)、民主共和型(韓国)、立憲共和制(フィリピン)など様々であります。また大統領の下に首相がいるフランスや韓国、ロシア型もあればアメリカのように大統領が仕切る場合もあります。権限も強い国から弱い国までさまざまです。
その中で一定の権限を持つ大統領を国民が直接的に選ぶ場合、国が二分しやすいというのが私の見る特徴であります。アメリカの場合、選挙人を介しますが、実質的には国民の意思が反映しやすい点でほぼ直接的に選んでいるとしても過言ではないと思います。たった一人の大統領を選ぶプロセスにおいて最大得票数が決定因子となりますが、それは必ずしも過半数を意味するわけではない点がポイントなのです。
韓国の今回の選挙でも李氏は49.42%であって過半数ではなくても当選です。アメリカのように二大政党の場合は結果として過半数になるケースがほとんどだと思いますが、過半数を要件としているわけではありません。とすれば意に反する人が大統領に選ばれた場合、一定数、そして韓国の今回の場合は過半数の人が李氏を支持していないとも言えるのです。
韓国大統領が何か政治的に躓きを起こせば必ず反対派が声をあげ、反対派は個別案件主義で民意を巻き込みます。例えば朴槿恵大統領(当時)の際のセウォル号沈没事故の時は朴氏の当時の行動をやり玉に挙げ、修学旅行の高校生らを亡くした親たちが感情に訴えるわけです。すると瞬く間に政権が揺らぐわけです。
尹錫悦大統領(当時)の場合は昨年12月の「非常戒厳」が躓きどころか派手に転んで骨折したようなもので自業自得の部分もありますが、弾劾されるにいたるのは世論形成がそうさせたとみてよいでしょう。
ではこれは韓国の特徴か、といえばアメリカも大して変わりはないと考えています。そして大統領周辺でなにか不祥事に近いことが起きた際、裁判所が一定の判断を下すわけですが、裁判官がどれだけ公正中立かという点は個人的には結構疑問視しています。それこそ裁判官も人の子、とすれば一定の私情が絶対にないとは言い切れません。時として結論ありき、という場合もあるでしょう。
例を挙げましょう。皆さんが医者にかかった時、医者の判断は「入院しなさい」だとします。ですが、今入院などできないからクスリと通院で勘弁してくれ、といえば医者も妥協する場合はあるでしょう。あるいは最近の医者は初めから選択肢をくれてどちらにしますか、という場合もあります。
別の例として会社が倒産して民事再生をする場合などは裁判官が関係者の意見を聴取したうえで「どうしたいですか?」という投げかけをすることもあるのです。つまり独断ではなく一種の議長のような立ち位置にある場合も見られます。
とすれば法の番人と言われても最近は相当の融通が利く場合が多いわけでその融通を私情と表現するのか、振れ幅の問題とするのかは解釈や表現の問題なのでしょう。
一定の権力が備わる大統領制の場合は一挙手一投足すべてが民意に刺激を与え、賛否両論が渦巻くことになります。特に韓国の場合、歴史的に大統領の公約に北朝鮮と「終戦宣言を目指す」というのがほぼ確実に入るのですが、その手法が強硬的か融和的かで明白な差が出ます。
今回の李氏ももちろん終戦宣言を目指すとしていますが、そのプロセスは「軍事的緊張の緩和」であり、対話による平和と共存であります。とすると日米韓の軍事的関係と緊張感をどう維持するのか、これが韓国国民のみならず、日米関係にも影響してくるわけです。
ではお前はどう考えるのか、と言われたら先の台湾の選挙と比較しても面白いと思うのです。台湾の人は総統選においてアンビバレント(両価的思想)だったと思うのです。つまり中国とはケンカしたくない、だが自分たちは中国本土とは一緒にしてほしくないという気持ちです。
韓国ではこのアンビバレントな思想はより強く、故にゴールポストもよく動くわけであります。言い換えると韓国でも台湾でも迫る脅威は怖いのです。怖い場合はなるべく刺激しないで今の平和が1日でも長く続いて欲しいという考えが過半を占めるのだと思います。一方で世界で戦争が展開されている時代に何時、何が起きるかわからないと考えれば一定の防衛能力といざという時の体制は必要だよね、という発想が入り混じるのです。
韓国でもアメリカでも大統領は職務として一定の判断を常に下し続ける以上、反対派は声をあげる、それが日本人にはある意味、過激で別世界に見えるのかもしれません。それでも私が見る限り、アメリカは「4年後があるさ」、韓国は「ゼッタイにどうにかしてやる、見ていろ」ではないでしょうか?
懸念される韓国の対日政策は私はさほど心配することはないと思います。李氏は歴史問題は封印すると思います。そんな余裕がないと申し上げたほうが良いかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月5日の記事より転載させていただきました。