ズブズブな関係を明確な論拠で語れるはずだった人の話

びっくりしながら、ぴたりと腑に落ちた。

何の話かといえば、深田萌絵なる人物と鈴木エイト先生が登場する「自民党と統一協会の汚染。萩生田光一が深田萌絵を追い回す秘密はそこに?」と題された動画についてだ。

深田なる人の傍らで先生が何かやっていたとしても、後ほど語るが別に驚くべきことではない。

かつて先生は「皆さんにお願いです。統一教会と安倍晋三元首相のズブズブ関係を明確な論拠で語ることができるのは私以外にいません」とおっしゃったものの、それらしき確固たるものを提示していらっしゃらない。これでも萩生田議員のズブズブ関係を教示できる点を驚かざるを得ないのである。「そうか。二年でも、三年でも、十年でも──諦めてはいけない。これから明確な論拠が語られるのだろう」と。

ちなみに論拠とは、議論の拠り所であり、論が成り立つ根拠のことだ。

では何が腑に落ちたのかといえば、先生にとってのズブズブとはこういうもので、先生流のズブズブ論を拝借するなら、先生と深田なる人はズブズブなのだろうという点だ。

前述の動画を先生流の方法で解釈するなら、「萩生田議員は東京24区。東京24区には、日頃から『統一教会(世界平和統一家庭連合)と政治の深い関係』について語って比例で当選した有田芳生議員がいる。萩生田議員から刑事告訴されたという深田萌絵なる人に、萩生田議員や自民党の汚染ぶりとやらを説明する鈴木先生は、深田ズブズブのみならず、有田ズブズブ、登場人物総ズブズブなのは明白だ。明確な論拠はいずれ語ろう」となる。

これは、これで壮観だ。とは言ったものの、こんなことで良いのだろうか。

ところが、これで報道が日本の政治と社会を動かしてしまった。

安倍晋三氏へのズブズブの論拠がいつまで経っても出てこないうえに、先生によって発掘された安倍氏に統一教会の関連団体から報酬が支払われたというスキャンダルは、その関連団体から金を受け取っていたとは明言していないという奥ゆかしい表現に変わってしまった。しかも奥ゆかしい先生は、ではいったいどのように報酬が支払われたか明言されない。

しかも先生からの重大発表を待たず、暗殺事件報道は統一教会糾弾報道にすり替わり、因果関係不明なまま盛り上がってしまった。

これは統一教会または宗教界に限った問題ではなくなっている。

拙著『検証暴走報道』において、報道量、報道の内容、これらの影響をデータから明らかにしたが、明確な論拠も、確固たる証拠もないまま事実報道が消え、憶測ばかりが報道され、因果関係が不明なまま社会が扇動されたのだった。

思い出してもらいたいのは、2011年に発生した東日本大震災と原発事故に関する報道だ。事実報道より憶測報道が悪目立ちし、まがいものじみた逸話を綴った朝日新聞の「プロメテウスの罠」に様々な賞を与えてしまった。

この連載は同紙記者が始めた慰安婦捏造報道に匹敵する悪質な内容だった。だが反省がないまま安倍晋三氏をめぐるいわゆるモリカケ報道が過熱し、事実報道が憶測報道に変質し、トリックスターが登場するところまで、旧統一教会追及報道の前哨戦とも言えそうな様相を呈した。

これで新聞やテレビなどのマスメディアはどうなったのか。

新聞の夕刊からの撤退。テレビの視聴者離れ。いずれもネットメディアに圧倒されたせいだが、新聞やテレビなどの説得力が低下したから圧倒されたのだ。出来事をありのままに伝えず、何者かを悪魔化して悦に入り、政治や社会が受けた影響を後始末しないまま、混乱を放置して次の話題に飛びついていれば人々から見限られて当然である。

マスメディアの内側からは、いつまでも論拠を示さない先生の奥ゆかしさについて、いろいろな声が聞こえてくる。

その上で思うのだが、いざとなったらマスメディアは先生との関係を無かったことにするのではなく、卑怯極まりないものの「先生に騙されていた」と大合唱したほうがよいかもしれない。なにせマスメディアが抱く思惑の燃料になったのが、先生のズブズブ解明への自信だったのだから。騙されたなどと言われたら、先生は必ず驚くべき情報を提供するだろう。これで発行部数や視聴率が上がるはずだ。もちろん私は、先生が確たる証拠を山ほど手にしていると信じている。

それにしても、先生はなぜ深田なる人にズブズブ論を開陳したのか。

「統一教会と安倍晋三元首相のズブズブ関係を明確な論拠で語ることができるのは私以外にいません」とおっしゃりながら、確固たるものを何年経っても出そうとしない奥ゆかしさは、深田なる人がアジテーションで素朴な大衆の感情や欲求に訴えかける様相そっくりで、この類似点が関係しているのではないだろうか。

以下のグラフはGoogleでの検索数を元に、人々の興味の度合いを表したものだが、先生への興味の度合いは出演されていたミヤネ屋の高視聴率期より、ジャニーズ会見で奇妙な憶測をしたり提訴された時期のほうが高く、こうした騒動がなければ低迷しているのが一目で分かる。

先生はいつまでも奥ゆかしく統一教会と安倍晋三元首相のズブズブ関係を明確な論拠で示さないので、薄情で浮気な人々の興味が去ってしまった。このため先生は、「いつか論拠を話す時が来る。だから私を忘れるな」と、突如として専門外の案件に飛びつかなければならないのではないか。こうした点も、深田なる人の事情と一致しているのではないか。

Google検索インタレストは検索に使われた「語」と関連する項目の見直しが行われたとき結果が変化する場合がある。
上掲のグラフは2023年末のもの

先生には、まず結論がある。これはジャニーズ会見の奇妙な憶測でもはっきりしている。深田なる人も、そうだ。同じ才能の持ち主同士が、結論を元に明確な論拠を組み立て創造し合うのだろう。そういえば森友学園問題で目立ったあの人も、まず結論があり、先生と仲がよろしいようだ。

もったいぶらずに、凡庸な私たちに論拠、根拠といったものを見せていただきたいものである。先生のような才能に乏しい私たちは、時間をかけて取材をしたり、データを集めるなどして結論に至るほかないのである。


編集部より:この記事は加藤文宏氏のnote 2025年6月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は加藤文宏氏のnoteをご覧ください。