日本の物価水準や経済の処々雑感

岡本 裕明

日本の所得や物価を考えるなどと言えば、大所高所の視点の小難しいことを書くのかと思われそうですが、ごく普通の目線に立って皆様と一緒に考えてみたいと思います。

私のこのブログでは長年にわたり、日本の物価水準が低すぎること、「失われた30年」とは日本経済の体力消耗であり、日本は資源立国でもないのでいずれ物価は国際水準に訂正されていくだろう、と述べてきました。

また黒田日銀前総裁の10年に及ぶ政策は金融政策という非常に狭くテクニカルな部分にフォーカスしすぎた結果、日本経済が真綿で首を締める状態を放置したと私は考えています。金融政策や経済政策は科学技術と違い、実験が出来ないので「あぁすればよかった」「こうやればもっとうまく出来た」という批判批評はいくらでもできるのですが、そこに立ち戻り、もう一度やり直すことはできないのです。

植田総裁と会談する石破総理 令和6年10月 首相官邸HPより

その例外が最近ありました。江藤前農水大臣と小泉大臣のコメ政策です。これは政策や施策が一晩にして大逆転をしたので、実験と捉えれば大局的に見て2度目の試行は成功したように見えます。これは短期間での政策大変更という珍しいケースで「見える化」が起きたとも言えます。

今、外国人がこぞって日本を目指す理由はいくつかあると思います。一般に言う物価差は確かにあります。なぜ日本と諸外国で物価がそれほど違うのか、と言えば生産管理やコスト管理、薄利多売、需要旺盛、日本人の清貧だからでしょうか。日本はよく輸出大国と言われますが、実態は内需主導であります。一方、1円の所得増に対していくら使うかという経済分析である限界消費性向の所得効果の調査をみるとアメリカが0.6-0.7円程度に対して日本は0.07円、つまりアメリカの1/10ぐらいしか使わないという数字もあります。(コロナの頃、現金給付の意味の是非が議論され、麻生氏が反対姿勢だった理由はここにあると考えています。私が今回の政府の現金給付案を好まないのもこれが理由です。)

これは日本が消費大国にもかかわらず、懐にため込む性格も見て取れます。そして私が時折指摘するように多くの富裕層は不動産という非流動化資産が中心であり、現金や同等物が少ないのです。(そういう私もそうです。)となると北米の人のようにパッパとお金が払えないということはあるのでしょう。

日本人はセロトニンが足りないから心配性なのだ、という点もあります。アメリカ人やカナダ人を見ていると介護保険といった仕組みが皆無でありながらそれが社会問題に発展しないのは政府に頼れないため自助の発想があるからかもしれません。故に自助できない人は後々苦しむし、しっかり準備し、自己コントロールできる人は長く幸福な生活をしています。

日本の場合は政府や国家が国民全体の長生きを支えようとする仕組みがあり、国民はそれに乗っかれるという特典があるのですが、見方を変えれば自立を妨げる弊害にもなりうるわけです。故に私が時々苦言を呈するように健康保険料や介護保険料が給与から一律で天引きされることは果たして良いことなのか、と思う訳です。これでは健康な人ほど損をする話になるのです。

当地ブリティッシュコロンビア州の自動車保険は州営なので保険会社が1つしかありません。その保険会社は10年前は大赤字でした。今の州首相が当時、おおなたを振るい、事故る人や違反の多い人の保険料を無謀なくらいの金額にすると同時に無事故者には大幅な減額としたのです。つまりメリハリをつけたのですね。その結果、今の保険料は当時に比べ4-5割下がり、かつ、保険会社が儲かった年には保険料還元イヤーがあるのです。今年も1万円相当の還付がありました。日本の健康保険制度もこのように個人の療養費ベースで保険料設定が出来たら面白いですよね。そうすれば少なくとも所得の多少の向上は達成できると思います。(日本の場合、これを言うと野党から姥捨て山と批判をされるのですが、ゼロか100かの極端な議論をしようという訳ではない点をご理解いただきたいと思います。)

国家ベースで見た場合、所得は国家(税金)、企業(利益)、個人家計(個人所得)に分類されます。これがどのように配分されるか次第なのです。日本の場合、歴史的に国家が個人家計を吸い上げる仕組みです。例えば江戸時代の幕府と藩の力関係を見てもわかるように藩が裕福になり発言権が強くなるのを恐れ、藩の財政を厳しくすることを目指したのです。今の日本の財政も発想の原点は搾取の時代である日本の近代化以前の仕組みがそのまま残っていないとは言えないでしょう。

一方、不思議と企業の利益は誰も何も言わないのです。その企業は投資先がなく、投資に対する失敗も恐れるため、保守的企業行動となり、内部留保だらけになっています。とすると国家規模でみるなら企業の蓄えを放出させるのが理に適っているとも言えます。国がやらないので海外を中心とした物言う株主たちが企業のがま口を開けさせているわけです。

この所得分配のバランスを再構築すれば日本人の所得は上昇し、国家財政にもたらす税収も増大し、企業は胡坐をかけなくなる、とも言えないでしょうか?実際には企業が給与を大幅に増やし、個人家計を改善し、その結果、所得税や消費税を通じた国家財政への還元すればよいのです。

話があちらこちらに飛びましたが、視点はいろいろあるのだと思います。そして誰がそれをどう動かすか次第で我々が知らなかった世界に誘うことも可能だと私は思っています。これがバランスある経済力であり、それを担うのが政治力だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月19日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。