ロボットと人間の共生はどこまで?:人間はどこで働くのかという難題

AIの時代、技術を否定することは時代の変化を受け入れられないおじさん扱いをされるので気をつけなくてはいけないのですが、フィナンシャルタイムズに興味深い記事が出ていたのでまずはここから考えてみましょう。記事の題目は「ロボットが労働者心理に悪影響、作業単純化で『とんでもなく退屈に』」というものです。

長い記事なのでかいつまんで言うとアメリカのアマゾンのロボット倉庫で働くあるスタッフは1日最大12時間、同じ場所に立ったままフロアを猛スピードで動き回る数十体のロボットが運んでくる容器から商品を取り出す仕事をするのだが、忙しい時には持ち場の前に20体のロボットがこのスタッフが商品を取り出すのを待つために行列をなす、というのです。それゆえにとても退屈な仕事なのにストレスフルでこの倉庫から配置転換をしてもらい、通常の配送センターで仲間と雑談をかわしながら仕事している今にほっとしているというものです。

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この例は我々が望んでいたロボット化=生産性が高く、文句も言わず、定期昇給も求められず、遅刻早退もない夢のような生産性効率向上策は実はまだまだ実験段階であることを意味しています。

先日、ある会食があり、そこでふとしたことで話題に及んだのが日本の出生率低下で、ある方が「そのうち、リアルの人間の出生数とロボットの出生数(新規稼働数)が同時に発表されたりするのでしょうかねぇ?」と冗談交じりで述べていました。数日たって思い起こすとこの話とは案外、的を得ている話かもしれないと思い始めたのです。現状、ロボットは概ねある特定の目的の作業をすることに特化していますが、そのうちに複数の作業(マルチタスク)を担い、更に進化すればお手伝いさん替わりになる時代がくるかもしれません。20年後の主婦の会話は「あら、山田さん、オタクまだ犬を飼っていらっしゃるの?宅はロボットを飼ってますのよ、ホホホ」。

街に二足歩行のロボットが普通に歩いていてコンビニで牛乳を買って帰るというシーンが当たり前になる日はまだ私たちが生きているうちに起こりうるかもしれません。

では人間はどこで働くのでしょうか?飲食店の厨房ではロボットが働き、フライパン物の調理をし、自動的に皿に盛られます。新しいローソンの実験店では唐揚げが自動的に作られ、コンビニの品出しも全部自動です。その仕組みは昔のパチンコ屋と同じで食品棚の後ろでロボットが働く仕組み。。「おーい、商品出ないぞ!」と陳列棚を叩くおじさんは現れるのでしょうか?

あるYoutubeで見たのですが、ある中華料理の自動調理の実験結果は味はさほど変わらず、かつフライパンを自動で洗ってくれるのであります。すると厨房にいる人間様はロボット管理をしたり仕込みをするだけで忙しいランチタイムの厨房はロボット任せ、配膳もロボット任せにすることが可能になるのです。では質問。これ、料理人にとって楽できるから楽しいと思いますか?確かに人材不足という問題には適応できるでしょう。しかし、料理人が料理人たる腕を磨き、自信と生きがいをどう育むのでしょうか?

証券も自動売買になり証券マンもアナリストも予想屋も必要なくなります。競馬だってAIに予想させれば的中率は上がるのでしょうか?でもこれ、楽しくないですよね。つまり私たちはとても我儘に育っており、100%のお膳立てがされるのを決して満足だと思わないのです。

FIRE(早期リタイアして財テク⦅古っ!⦆で余生を暮らす)を止めるという話を以前しました。早期リタイアしても誰も遊んでくれないし、思った以上の暇さに耐えられなくなったというわけです。

仮にアルファ世代(概ね2010年以降生まれ世代)は幼少期から機械とのコミュニケーションが当たり前だから機械との共生にはまるで抵抗がないとされます。すると人間世界の原点の一つである共同体は崩れるのです。これが崩れると種の保存の意識がより減退し、ユニセックス化になりやすく、少子化が圧倒的加速度を伴い、人類の種の維持が困難になる時代が来るというSF物語チックなことすら起きかねないのです。

私は努めて楽をしない様にしています。作業効率もこの10年改善していないかもしれません。しかし、今過ごす日々は充実しており、物事が良く掌握でき、自分で高速度で考える力がより高まっていると感じています。確かにロボットが秘書業務や家事をやってくれればありがたいと思いますが、完全無比の仕事をされるより若いスタッフに「これ、違うじゃない?」というコミュニケーションの方が楽しいと思います。ロボットとは仕事の後のビールも飲めないでしょう。同僚の喜怒哀楽を共有することもできません。お前は古い人間だな、と言われるかもしれませんが、テクノロジーと人間の能力は使い分けるという知恵と工夫も必要だということです。さもなければ冒頭の記事のようにロボットが長蛇の列をなして人間の作業を待つという珍妙な光景が当たり前になってしまうのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月25日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。