米軍の空爆によるイランの主要な3か所の核施設の被害状況について、前日のコラムで書いたように、米中央軍の「戦闘損害評価(BDA)」に基づき、国防総省の国防情報局(DIA)は空爆の成果を懐疑的に評価する一方、米中央情報局(CIA)のラトクリフ長官は25日、トランプ米大統領の評価を支持し、「大きな成果を挙げた」と表明するなど、米政権内で意見が分かれている。

イランのアジズ・ナシルザデ国防相は、上海協力機構(S.C.O)国防相会議に出席するため、中国の青島に到着した。2025年6月26日、IRNA通信から
ここにきて、イランのウラン濃縮用の最先端遠心分離機材や高濃縮のウラン約409キログラムは米軍の空爆前に安全な場所に移動された、といった情報が流れている。ちなみに、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が報告したように、米軍の空爆後、放射性物質の外部漏れが報告されていない。ただし、イランが密かに進めてきた核開発計画に大きなダメージがあったことはほぼ間違いないだろう。実際、イランのアラグチ外相もその点は認めている。
ここでは「停戦」後の「イラン」の出方を考えてみたい。
トランプ大統領は25日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれたオランダのハーグで記者会見し、イランと「来週協議する予定だ」と明らかにした。イスラエルのイラン攻撃で中断した米イラン間の核協議の再開だ。
ところで、米国の要求とイラン側の立場には大きな違いがある。その一つは、トランプ氏がイラン側にウラン濃縮関連活動の完全な停止を要求していることだ。イラン側は「核エネルギーの平和利用は全ての国に認められている権利だ」という理由で、米国案を一蹴している。イラン指導部でも穏健派のペゼシュキアン大統領も「核の平和利用は継続する」と強調している。
そこで考えられる点は、ディ―ルを得意とするトランプ氏は「ウランの高濃縮活動を厳禁し、遠心分離機の数を制限する一方、民生用のウラン濃縮活動は認める。そして国際機関の厳格な監視を受け入れる」といった妥協案だ。ある意味で、トランプ氏が2018年に離脱した、国連安全保障理事国5か国にドイツを加えた6カ国とイラン間で締結した2015年の核合意の内容と酷似している。
ひょっとしたら、トランプ氏のことだから、イランとの核協議では「米国を再び偉大な国に」(MAGA)に倣って、「イランを再び偉大な国に」をアピールし、対イラン制裁の大幅な緩和を申し出るかもしれない。経済制裁下で苦しんできたイラン側にとって魅力的な交渉となる可能性はある。
次のシナリオは、イランが核拡散防止条約(NPT)から離脱し、IAEAとの協力を制限し、核開発計画を進めていく出方だ。換言すれば、核開発でイランが北朝鮮方式に出るわけだ。イラン議会は25日、NPT離脱を要求する決議案を可決している。最終的決定は同国の最高指導者ハメネイ師と同国安全保障に関する最高意思決定機関「国家安全保障会議」が下すが、NPTの離脱は国際社会から核兵器製造の表れとしてイラン批判が高まることは間違いない。イランが核兵器製造に乗り出した兆候があれば、米国とイスラエルは再度、空爆も辞さないだろう。
いずれにしても、イランは米軍の激しい空爆を受けたイランの核関連施設で核開発計画を再スタートすることは難しいから、新しい場所で始めるだろう。ただ、米国とイスラエル両国の厳しい監視下で核開発を進めることは非常に難しい。同時に、裨益する国民経済の中、莫大の核開発費用を捻出することは大変だ。
3番目のシナリオは現時点では非現実的だが、ハメネイ師主導の聖職者支配体制の終わり、新しい政権の発足だ。多くの指導者を失い、対イスラエル・米国戦で敗北した現指導部に代わって、西側寄りのリベラルな新政権の発足というシナリオは、現時点では残念ながらまだ夢だ。
英フィナンシャル・タイムズは25日、平和的な核開発計画を装って核兵器生産を進めてきたイランのこれまでの戦略を「壮大な失敗」と評した。一方、ネタニヤフ首相は米軍のイラン攻撃を「歴史的転換の日」と称賛した。すなわち、イランは「壮大な失敗」と「歴史的転換の日」と間に挟まり、民族・国家の命運をかけた新しい出発の時を迎えている。テヘランの指導者が正しい選択を下すことを願う。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年6月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






