首相官邸HPより
トランプ大統領の関税率通知に対して、マスコミでは大あわてで「石破総理、何とかしろ」という声がますます大きくなっている。口汚くトランプ政権の無茶苦茶ぶりを批判しながら、石破政権の動きに何とかしろ、としか言わないのはいかがなものかと思う。
正直、私は、(党内野党ではなく)自民党コメンテーターであった石破総理は様々な意味で総理の器ではない、早く退陣したほうが日本のため、とはいうものの、少なくとも、トランプ関税の対応については非常に評価している。
石破総理の意思かどうかは別として、交渉します、交渉しますと言って交渉しつつ、結果は何も出さない、というのはトランプ関税に対する一番いい作戦だと思うのである。
交渉、ということは、アメリカに利益がありかつ日本にも利益があるものである。譲歩があるとしても一方的なものではない。アメリカに脅されてわかりました、やります、というのは交渉ではない。
石破総理に真剣な意味で「交渉をしろ、答えを出せ」という人に限ってどう交渉すればいいのか言わないように思う。「ここまでやらせていただきますからお代官様どうかお許しください」といえば満足するのだろうか。
確かに、日本がこれでつぶれるなら、必死になってお代官様の言いなりになるしかないだろう。しかし、日本の国力はそこまで危険な水域に達しているのだろうか。もちろん、今のトランプなら日本に刃を向けるかもしれないがそこまでならないなら、うろたえたりせず、落ち着いて考え、政治の道具やマスコミネタにしてはいけない。
では、日本に大きな関税が課せられていいのか、という声に対しては、口では困る困ると言いながら本音では「どうぞ」というのが私の認識である。
2022年までの為替レートは110円/$前後であった。それが最近150円/$近辺となっていた。単純に考えれば1.36倍である。単純に比較はできないとしても、トランプ関税は個人の恣意的なものではあるが、為替の高騰と考えるとどうだろう(もちろん、さらに80円/$まで上がるかもしれないが・・・)。
つまり、相手が個人だと思うから何とか交渉で・・・と考えるのだが、為替だと思えば、いろいろ問題があるにせよ、為替を下げるのではなく、まずはどうやって乗り切るかを考えるのではないだろうか。
日本の国力がトランプ関税が適用されればダメになるほど、やわなものであれば「お代官様・・・」でいいが、(個別に考えればかなり厳しい企業もあるであろうが)日本全体として、国が傾くレベルではあるまい。
トランプに3期目はない。次の大統領がトランプ寄りであっても、関税をあげることなどのトランプ政策によるアメリカ経済への弊害がじわじわ現れてくれば、今のようなドラスチックな政策はとれないだろう。
輸出価格というものはいずれ適正価格になる。そのとき、アメリカ経済がどうなるか、そのときにまたあたふたするのだろうか。
長期的に世界の経済を考えたときに、トランプの行動をそのまま受け入れるより、日本人の得意な受け流す、という作戦は、理にかなっていると考える。
関税を嫌ってのアメリカへの工場移転については、労働力の質・コストなどを考慮二の次にしてまで移管をすることが本当に起業にとって最善策かどうか、ということをもっと真剣に検討すべきである(少なくともトランプ在任中には工場の移転など無理であろう)。
もちろんこれは言いなりになるのでなければ、工場移転を含め、日本の国益にかなうことをアメリカの利益に見せかけて行うことは問題ではない。うろたえで「盲目的に」いうことを聞くのでなければいいのである。
こう考えれば、やりますやります、といって現時点で何もやらない、という今の石破政権のトランプに対するあり方は、交渉の仕方として申し分のないものだと思うがいかがだろうか。
日本がつぶれないなら、口ではご機嫌を取って(そういう意味では「交渉します」と、アピールして)、トランプに成果が出せたように言わせて、トランプの任期満了をグッと待つという石破総理の戦略は素晴らしいではないか。
まぁ実際には、石破総理も何とかしたいと思っているが何もできない、というのが実態で、結果的に、いい感じになっているような気もするが・・・。アメリカが日本を武力攻撃しない限り、利用すればいいのである。トランプのいうことを聞くふりをして成果を出しているように見せかけて日本の国内がこの為替高騰、いや高関税に対応することを考えたいものだ。
なんだかんだ言って、中国は結果的にうまくやったと思うが、参議院選挙後に石破総理が変な妥協をしないことを祈りたい。
■
田中 奏歌
某企業にて、数年間の海外駐在や医薬関係業界団体副事務局長としての出向を含め、経理・総務関係を中心に勤務。出身企業退職後は関係会社のガバナンスアドバイザーを経て、現在は隠居生活。