参政党の拡大とトランプ25%関税:日本政治の転換点

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炎上狙い?

参政党の支持が伸びている。7/3(木)の神谷代表の参院選公示後第一声での「高齢女性は子供を産めない発言」について、いわゆる左翼側のメディア、言論人、SNS等は一斉に攻撃した。

これに対し「何も間違った事は言っていない」という擁護の声が起こり、自民、国民民主、日本維新等の諸々の微温的な姿勢にモヤモヤ感を抱いていた保守層・中間層が剥がれ、参政党支持に回った。

いわば、左翼が薪をくべ炎上させればさせる程、意図に反して参政党の支持が上がる図式が出来上がったようだ。神谷氏は意図的にこれを狙いに行った感もあり、左翼は見事に術中に嵌ったのかも知れない。

このまま致命的なアクシデントが起きず支持が伸びれば、参院でキャスティングボートを握れる勢力になる可能性はかなり高い。また、次の衆院選等でも党勢の拡大が見込まれる。

さてそれに伴い、代表の神谷氏の過去の発言等も掘り起こされ批判の対象となって来ている。例えば皇室維持に関して「天皇陛下が側室を持ちたくさん子供を作っていただく事もやるべきじゃないかな」と言う旨の発言(2023/6/29投稿のYouTube動画内)が挙げられている。

仮に例えば現在民間人である竹田恒泰氏のような方が述べるのなら分かるが、現代において公党の代表(当時は事務局長)が発する言葉としてはかなり過激な発言ではある。

ここで政策面に目を向けて見よう。参政党の政策 3つの重点政策を読むと、保守色を基調にした比較的無難な記述が並ぶ。

しかし、具体的政策となると下記のような保守派の中でも大きく議論の分かれる事項も見られる。

3 経済・財政・金融

  • 国債償還政府通貨の発行による積極財政の実現と国債利払いからの脱却。
  • 投機による金融所得の税率引き上げと累進化。

日銀券に(一部)代えて政府通貨を発行するアイデアは以前からあるが、もし利払いが無いからと言って緩い制限で発行し続けるなら、インフレ、進んではハイパー・インフレとなって経済と国民生活を棄損するだろう。

また、仮に金融所得に広く厚く累進課税を適用するなら、金融相場は少なくとも低空飛行を余儀なくされ、状況によっては暴落も有り得るだろう。

更に、新日本憲法(構想案)には、下記条項がある。

「第二章 国家(国)第四条 国は、主権を有し、独立して自ら決定する権限を有する。」

しかし、この構想案では、現憲法にある「国民主権」についての記述が無い。国家に主権があるのは対外的には当然であるが、憲法に書くべきは第一に国内的視点であり、「国民主権」でなく「天皇親政」を想定しているのか等の疑問も残る。

さらに現行憲法が保障している「法の下の平等」「思想・良心の自由」「信教の自由」「表現の自由」「財産権」「黙秘権」「拷問、残酷な刑罰の禁止」なども削除されている。

このように、参政党の政策を覗いてみると、懸念を抱く部分や、生煮えの所や相互に矛盾したものも見受けられる。これらは例えれば、労働法規の適用が大企業となると世間の目や当局の規制が厳格になるが、まだ零細企業には大目に見られている事に似ていようか。

もし今後も党勢拡大が続くなら政策面の整理、組織運営面での整備が必要となってくる。いわば、フランスのルペン親子が今は弾圧されているものの二代掛けて過激な部分や粗削りな部分を削ぎ落して国民政党へ脱皮していったような道を、必然的に辿らざるを得ない事になるだろう。

トランプ関税

さて日本時間の7/8(火)の朝に、トランプ政権が日本政府宛に「相互関税」を25%にする書簡を送ったというニュースが飛び込んで来た。

トランプの署名した書簡を見ると個別分野の関税に上乗せされる形で課税され、例えば自動車は現行の追加関税25%に上乗せして合計50%が追加されるようにも読み取れそうだが、米政府関係者によればその重複は無いとの事だ。

しかしこれにはトランプ流の相手を疑心暗鬼に陥らせて譲歩を得る交渉術が仕込まれているかも知れず、明日になれば本気で自動車に50%追加課税をしてくる可能性が無くなった訳ではない。

何れにしても、たとえ25%でも日本経済と雇用に大きなダメージをもたらす。トランプも本気で木偶の坊みたいなアメリカ車が日本で売れるとは思っていないだろう。またコメの輸出もそれほど関税金額的にインパクトのあるものではない。だが、有権者向けに象徴的な意味を持つ事は確かだ。

日本がこの件でトランプに対峙する戦略としては、既に方向付いている米国での投資・生産拡大、エネルギー輸入の拡大の更なる上乗せに加え、

① 輸入米国車の安全基準等で実害の低いものをチョイスして引き下げる。
② 米国製日本車を輸入する。
③ コメは今年来年等、不足が予想される場合に限っては輸入を拡大する。

といった辺りが考えられる。

そしてトランプが何より苛立っているのは、あまり表立って言いたくないだろうが、現日本政府が中国寄りで領海・領空侵犯等をされても「遺憾砲」しか発しない事、対中包囲網の構築に後ろ向きである事、フェンタニルの輸出基地となっているのに取り締まりに本気でない事等に対してだろう。

そして石破総理の「関税交渉と防衛力強化はリンクさせない」と断じた姿勢に恐らく「何もわかっていない」と考えているのではないか?

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これらに対応するには、先ず少なくとも自民内で首班交代が行われる事、進んでは連立の組替え、政権再編が行われ、貿易政策と対中政策の転換、防衛力強化を行う体制にシフトする必要がある。

話を参政党へ戻し、これらに近く、トランプ政権の掲げる移民制限、LGBT制限、国家主権・防衛力の強化、ウクライナ戦争対応等、「アメリカ・ファースト」に一番フィットするのは普通に考えれば「日本人ファースト」を掲げる参政党だろう。

なお「アメリカ・ファースト」という言葉には、アメリカ人の権利・利益を第一に考えるという意味の他に、アメリカが覇権の強度を弱めても世界で一番であり続け、盟主・リーダーであり続けるというイメージも帯びており、「日本ファースト」と謳うと後者の部分でそぐわないので「日本【人】ファースト」となったかと思われる。

さて、これらに関しても、参政党の神谷氏の物議を醸している投稿がある。

筆者は、台湾・尖閣に関しては、中国が侵攻してくるリスクと、米国が代理戦争をさせるリスクの2つの潜在的リスクがあると考えている。当該ポストはバイデンが日台と中国を代理戦争させかねなかった状況下でのものであり、その意味では理解可能な範疇だが、神谷氏の更なる外交・防衛戦略の整理と説明が必要となってくるだろう。

ここで、同じ新興保守政党の日本保守党についても少しふれておこう。NHKの7/6(日)放送の参院選での党首討論で、関税交渉に対するトランプの不満の中身の推測と対策を、的確に述べており、ほぼ筆者の見立てと同じだ。

しかし不思議な事に、この動画投稿が次々消されているという事だ。普通に考えれば、日本保守党にとっても支持者にとっても、これを拡散すれば票が増えると思うのだが何かに気兼ねしているのか不可解さが残る。

ともあれ、現下の参院選は、トランプ政権に対面するための的確な体制シフトに導く選挙とならねばならない。さもなくば、日本の凋落は止めどなく続くと言わざるを得ない。