対米依存を見直すいい転機
トランプ米大統領が日本を含むほぼ全ての国に、国際的な規範を軽視し、一方的で威圧的な手法で高関税をかけると通告しています。世界の覇権を狙うのはやめ、米国だけの国益を最優先する米国独裁といってもいいでしょう。製造業の衰退、金融・IT産業の繁栄、国内格差の拡大、貿易赤字の膨張など米国自身の選択の結果を検証すべきなのに、自らは省みず、他国のせいにしてつけを回そうとしている。
メディアは「通商ルールに反した独善的な要求を、多くの国が簡単に受け入れまい。一連の措置を撤回すべきだ」(朝日新聞社説)、「経済安全保障の強化に資する日本の提案を顧みず、高関税を課すことは容認できない」(読売社説)、「高関税で輸入物価が上がれば、苦しむのはトランプ氏の支持層と重なる中低所得者だ」(日経社説」と、トランプ氏に対し、容赦なく異例の批判を続けています。
トランプ支持層が有権者の半分程度を占めていますから、いくら批判をしても、トランプ政権の政策、米国が選択する方向を変えることは今は至難でしょう。そこで最近高まっているのが「対米依存が強すぎた日本の外交のありかたを見直すいいチャンスだ」「対米追随一辺倒を修正し、自主外交をやる時期に来ている」という声が聞かれるようになりました。「危機を転機に」「転機を好機に」です。
トランプ大統領 ホワイトハウスXより
誤解のないようにいっておきますと、「米国との関係の断絶を目指すのではない。米国との関係は改善の努力をしながら、日本は東南アジアや欧州の国との連携を強化し、外交の枠を広げてチャンスか転機にしなければならない」という考え方です。もちろん半世紀ほど続いたグローバリズムがもたらした負の効果(格差拡大、広がりすぎたサプライチェーン・供給網の脆弱性)への反省も必要です。グロバリゼーションも転換期を迎えていきます。
「日本は高関税に苦慮する東アジアや欧州との連携も欠かせない」(朝日社説)、「東南アジア、インド、アフリカなど経済成長を見込める途上国への販路を広げ、米国への輸出依存度を下げていこう」(読売社説)という主張が聞かれます。中国との信頼関係も醸成していく必要があります。
識者らからも「米国が世界のリーダーの地位から降り、米国だけの損得勘定を考えるという。われわれは対米依存が強すぎた経済、安全保障のあり方を修正していく必要がある」と指摘があります。時代は50年か100年に一度の大転換期にきています。
メディアに載るコメントを読んでいて、絶句したことがありました。「無策が招いた高関税」(読売新聞政治部長)の解説です。「関税交渉で石破首相は無為無策だった。最大の失敗は首脳同士で突っ込んだやりとりができず、トランプ氏の真意をつかみきれなかったことだ。交渉カードもなく理屈で返した首相の対応がトランプ氏の心証を悪化させた」と。
新人記者ならともかく、政治部長がこんなよく書けました。「無策が招いた高関税」の見出しも間違いで、「乱暴、無謀な高関税」が正しい。批判すべきは石破首相でなく、トランプ氏です。
主語を取り違えてえいます。「石破首相を主語とした文章」を「トランプ氏を主語にした文章」にすれば、現状を正しく伝えることができます。まともな記者なら「トランプ氏の提案は石破氏に全く響いていなかった」、「トランプ氏の国際規範を無視した一方的な高関税は石破氏の心証を悪化させた」と書かねばなりません。石破首相をもっぱら批判するのは錯誤です。
その読売新聞は参院選立候補者へのアンケート調査の結果を11日朝刊に掲載しました。選挙選の争点を三つまで挙げてもらったところ、景気・雇用(47%)、消費税(41%)、年金・医療・介護(39%)でした。外交・安全保障は17%で10位でした。激動する国際情勢の中の日本の先行き懸念こそ重大問題です。日本の政治家の思考のスケールが小さすぎます。
トランプ氏の登場以来、世界における日本の将来、先行きをどう考えるかが喫緊の課題になってきました。それとの関連では、アンケート調査では、中国との関係強化に対し「賛成」と「どちらかといえば賛成」が計38%で、「反対」と「どちらかといえば反対」が計30%で、賛成が反対を上回りました。中国との関係改善を「媚中派のやること」と言わずに、選挙後にささかれている大連立(自公・立憲)が実現するなら、こうした大きなテーマで政策協調すべきでしょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年7月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。