福岡県久留米市と大分市を結ぶ久大本線に乗って筑後吉井駅に来ました。蔵のような佇まいの味のある駅舎。ここは江戸時代に宿場町として栄え、明治以降は木蠟(ハゼノキの果皮から得る油脂で和ロウソクや艶出しに使用されます。)生産や酒造業、金融業で資力を蓄えた商人の町として繁栄しました。
窓の格子が特徴的。
過去に3度の大火に見舞われたそうで、火災から町を守るために蔵のような家構えになっています。厚い壁のある塗り篭めの町家を「居蔵屋」と呼んでおり、町には多くの居蔵屋が残されています。
重要伝統的建造物郡保存地区に指定されているため、今も江戸時代を彷彿とさせる街並みが残されています。
訪ねたのが端午の節句の少しあとだったこともあり、水路には近くの保育所の子どもたちが作った鯉のぼりがかかっていました。この水路は生活用水を始め、農業用水、また物資輸送のための水運のために掘られたもので、この地域の生活を守る大切な役割を果たしてきました。
川の近くにある「居蔵の館」を訪ねます。こちらは明治時代に建てられた後大正時代に改築された、木蝋業で財を成した松田家の分家の方の旧家です。
松田家の財源となった木蝋から製造された和ろうそく。当時は灯りを取るために必要不可欠な存在でした。木蠟の取引は「吉井銀(よしいがね)」と呼ばれる富を築き、地域で相当の存在感を示していたといいます。
広い和室の向こうに整えられた庭園が見えます。当時の生活の豊かさぶりが窺えます。
トイレがあり得ないくらい斬新。明治時代、スペインのマジョルカタイルが流行しており、それを取り入れたものらしいんですが、現代でもなかなかこんなトイレは見られませんよね。用を足すのがもったいないくらいです。
五右衛門風呂
お風呂の天井は最上部の円い板の裏に通気口があって湿気がたまらないように工夫されています。
もう少し街並みを散策してみることにします。
吉井の古い街並みは目抜き通りである国道210号沿いにも多く建っていますので、車で走っているだけでもその街並みを楽しむことができます。この通りがかつて久留米と天領だった大分県の日田を結ぶ日田街道だった名残がここに色濃く残されています。
蔵の中の自転車屋。
古民家をリノベーションしてホテルとして営業する「みなも」
クリームソーダ店「旅する喫茶」
多くの古民家はリノベーションされ、店舗やホテルに再生されています。東京・高円寺に店舗を構える著名なクリームソーダ店、旅する喫茶もこちらに出店するなど注目度の高いエリアです。
「旅する喫茶」も目的の一つとしてこちらを訪ねたんですが、お休みで残念。その代わり、駅の中に併設されているカフェで一服することにしました。
カフェの向こうにホームが見えて停車する列車の姿も眺めることができます。列車の待ち時間にちょうどいいですね。
コーヒーとアフォガードを頂きました。甘いバニラアイスとちょっと苦みのあるエスプレッソの味が絡み合ってとてもいいバランスの味わいです。
かつての繁栄を色濃く残しながら、今は静かに歴史を伝える筑後吉井宿。建物をただ眺めるだけでなく、新しい店舗や古民家ホテルなども作られておりゆっくり街歩きするのにいい町です。周囲には原鶴温泉などの温泉もあります。ぜひ一度訪れてみてほしい場所です。
編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2025年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。