トランプ氏がゼレンスキー氏に「アメリカが長距離兵器をウクライナに提供したらモスクワをやれるか」との問いにゼレンスキー氏が「もちろん」と答えた(フィナンシャルタイムズ)と報じられています。これを受けて日経の社説は「米はロシアを停戦に追い込む圧力結集を」と題し、強いトーンでアメリカを支援する内容となっていましたが、朝令暮改というより「言ってみただけ」に近いトランプ氏はすぐさま、その発言を撤回しています。
トランプ氏が何を思ってロシアをやっつけてしまえ、と口走ったのか、ノリでしゃべっただけだと思いますが、どう考えてもそんな簡単な話ではありません。
仮に打ち消したとしてもトランプ氏とゼレンスキー氏のやり取りが真実であればアメリカが事実上、モスクワへの攻撃を指示し、ウクライナが代理戦争を行うスキームがより明白となりロシアに心理的な手の内を見せたようなものです。つまり、今までは欧米からの武器の供与にとどまっていたものが戦略の指示になれば次元が全く違うものになりかねないのです。
またトランプ氏はロシアへの100%関税やロシアへの支援国への高関税の適用を検討しているとされます。それが具体的に誰か、といえば中国、インドであり、こうなってくると関税交渉というレベルを超え、国交関係に発展しかねなくなります。
ウクライナをめぐる政治的トーンはこの3年半、常に流動的であり、欧米諸国の支援が強まったり、冷淡になったりしています。トランプ氏も全く焦点が定まらない発言を繰り返しているし、ホワイトハウスであれだけの口論をしたのにその後の両者の接近ぶりをみると「いったいどうなっているのだ?」という感想をお持ちの方も多いかと思います。
今回、トランプ氏がゼレンスキー氏の肩を持つ理由がプーチン氏が停戦に消極的だから、とされます。ということはトランプ氏がゼレンスキー氏にモスクワ攻撃を指示し、仮に何らかの攻撃を実行し、プーチン氏が「わかりました。停戦交渉のテーブルに着きましょう」と言わせるための脅しだということでしょうか?そのような都合の良いシナリオがその通りになるほど世の中は甘くないのです。子供のふるまいではないのです。いい加減にしてほしいものです。
トランプ大統領とゼレンスキー大統領 ホワイトハウスXより
朝令暮改型のつぶやきは「発言の担保がない」わけで、後々トラブった場合、「俺は知らない。そんなことは指示していない」と逃げるのは目に見えています。よって欧州などは表向き、支援をする姿勢を見せていますが、実態は様子見に留まると思います。
エマニュエル トッド氏著の『西洋の敗北』の中でウクライナ問題を取り上げていますが、彼は人口学者故に民族という着眼で意見を述べています。その中でチェコスロバキアの分離を例えてウクライナもそれがナチュラルという視点に立っています。つまり、チェコスロバキアは連邦国家だったものが民族間の亀裂が明白になり、1993年に平和裏に分離したことを例にとり、氏はウクライナの民族分布的に一つの国家として括るのに無理があるという論調であります。
欧州は民族闘争が常にあり、それが戦争の火種になったことは歴史が証明しています。欧州だけではなくほぼ世界中の国で民族問題を抱えていますが、アジアなどでは主たる民族が少数民族を押さえるマジョリティ民族による圧政という構図だと思います。また仮に民族ごとに国家ができた場合、それは無数に増える公算があるわけですが、かつ独立国家を維持するための経済財政的基盤もなく、世界からの承認といった問題も含め、たやすくないのは事実であります。
私個人の考えとしては東部ウクライナと西部ウクライナを分離し、東部を独立させる折衷は妥当だと思っています。現在のアメリカとロシアの停戦案は東部のロシアへの割譲だったと思いますが、それは戦争の勝敗を明白にするため、より弾力を持たせる独立の方がふさわしいと見ています。(結果として東部ウクライナが親ロシア派になるのは自然の成り行きでしょう。)
またゼレンスキー氏は内閣改造を試みているようですが、そろそろ自身の大統領選をすべきだと思います。今のままではゼレンスキー氏が将来、皇帝のような状況になることもあり得るわけで、時代にそぐわないと思います。民主国家として国民の声と判断を聞くことも重要でしょう。今のゼレンスキー氏は独裁に近く、果たしてそれでよいのか、いったん問う勇気も必要かと思います。
トランプ氏もロシアがいうことを聞かないなら攻めてやるというのは短絡的すぎます。トランプ氏の対ロ政策ではプーチン氏は頑なになるでしょう。つまり閉じた貝のようになりかねず、再び胸襟を開かせるのはより困難になると思います。アメリカの外交はこんなレベルだったのかな、と個人的にはがっかりしております。お前ならどうするか、と聞かれたらゼレンスキー氏にまず、いったん大統領選挙を実行させ、国民の真意を確認したのち、まずは国家国家の総意を見るところからスタートすべきかと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月17日の記事より転載させていただきました。