ローマ教皇レオ14世は21日、ガザ紛争についてパレスチナ自治政府のマフムード・アッバース大統領と電話会談をした。バチカンニュースによると、会談では、ガザ地区とヨルダン川西岸地区における最新の情勢について意見の交換が行われた。レオ14世は、民間人の保護と国際人道法の遵守を改めて強く求めたという。
アッバース大統領と電話会談するレオ14世 バチカンニュースから 2025年7月21日
バチカンの広報によると、教皇は国際人道法の完全な遵守を訴え、無差別な武力行使とあらゆる形態の強制的な避難を非難した。そしてガザ地区が現在も不安定な人道状況が続いていることを踏まえ、「危機的状況にある地域への人道支援物資の流入を許可すべきだ」を訴えた。
最後に、レオ14世は、2015年6月26日に調印され、2016年1月2日に発効した聖座(バチカン)とパレスチナ自治政府間の外交合意10周年を祝った。
なお、レオ14世教皇は20日、カステル・ガンドルフォの夏の別荘前の広場に集まった数千人の人々を前に、ここでもガザ紛争に言及し、「戦争の蛮行」の即時終結を訴えている。
ところで、レオ14世は18日、カステル・ガンドルフォの夏の別荘からイスラエルのネタニヤフ首相と電話会談を行っている。会談のきっかけは、イスラエル軍がガザ地区の聖家族教会を攻撃し、3人が死亡、重傷者を含む負傷者が出たことだ。
バチカンからの情報によると、レオ14世はネタニヤフ首相に停戦交渉を再開し、戦争の終結を実現するように呼びかけた。また、、ガザ地区の住民の人道的状況に対する懸念を表明した。同時に、全ての宗教施設を保護し、パレスチナとイスラエルの信者および全ての人々の安全を確保することの緊急性を訴えた。
ガザのパレスチナ当局者によると、イスラエル軍が20日、支援物資を受け取るため集まった住民に発砲し、93人が死亡するという事態が生じた。ガザでは、配給所付近で食糧を求める多くのパレスチナ人、少年や少女たちが殺害される例が多発している。国連によると、5月下旬以降800人近くが犠牲となったと発表した。
それを受け、28カ国の外相は21日、パレスチナ自治区ガザ情勢を巡るイスラエルの対応を非難する共同声明を発表した。
イスラエル外務省は「停戦合意を破っているのはイスラム過激派テロ組織ハマスだ。ガザ紛争の責任はハマスにある」とこれまでの立場を繰り返し、イスラエル非難の共同声明に強く反発している。
ただし、イスラエル軍が5月、パレスチナ自治区ジェニンの難民キャンプを視察していた日本などの外交団に「警告射撃」を行うなど、イスラエル軍の過剰な軍事活動に欧米諸国で批判の声が日増しに高まっている。これまでほぼ無条件でイスラエルを支持してきたドイツのメルツ首相も「イスラエル軍のガザでの軍事活動は容認できない」と批判している。
イスラエルとパレスチナ間の中東紛争問題では、バチカンは部外者ではない。例えば、エルサレムはユダヤ教とイスラム教にとって「聖地」だが、キリスト教にとっても同じだ。すなわち、「エルサレムの地位」問題があるのだ。
バチカン市国は、中東和平の具体的な和平案を公式には発表したことはないが、バチカンの立場は、イスラエルとパレスチナの二国家共存を支持し、両者が平和的に共存できるような解決策を模索、そしてエルサレムの地位や、入植地の問題など、複雑な問題を対話を通じて解決していくというスタンスだ。レオ14世のアッバース大統領とネタニヤフ首相との電話会談は、米国出身の新教皇の中東外交の始め、と受け取られている。
レオ14世インスタグラムより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年7月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。