こんにちは!自由主義研究所の藤丸です。
今回は、自由主義政策での復活が注目されているアルゼンチンについての記事を翻訳・紹介します。
ミレイ大統領が、政府支出の削減によって赤字を減らし、インフレを退治していることは有名ですが、今回はミレイ大統領の大規模な「規制緩和」に注目した内容です。
いまだにUberすら解禁されていない日本…。
アルゼンチンを参考にして、どんどん規制を廃止してほしいところです。
中でも特に注目すべきだと思うのが、(本文中に出てきますが)ミレイ政権の規制緩和が、
”政府の効率化ではなく「自由を拡大する」ことを使命として明確に掲げている。そのため、規制を見直す際には、「そもそもその分野に政府が関与すべきかどうか」という根本的な問いから始めていた”という点です。
これは非常に重要なポイントだと思います。
元の記事は、アメリカの自由主義系シンクタンク「CATO(ケイトー)研究所」の2025年春の記事(Ian Vásquez氏の「Deregulation in Argentina: Milei Takes “Deep Chainsaw” to Bureaucracy and Red Tape」)です。
※下記から全文が読めます。太字は筆者です。
Deregulation in Argentina: Milei Takes “Deep Chainsaw” to Bureaucracy and Red Tape
アルゼンチンの規制緩和:ミレイが「ディープ・チェーンソー」で官僚制度と規制を解体
アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、インフレを抑制し、政府支出を大幅に削減し、連邦官僚機構の大部分を解体しました。
しかし、ミレイ政権による最も広範な取り組みの一つは「規制緩和」であり、ミレイは大統領に就任して以来、平均して1日あたり約2件の規制緩和を実施しています。
アルゼンチンの慢性的な危機体質の経済の根幹には、「無制限の公共支出」と「極端な過剰規制」を助長する政治体制があります。
これは1940年代にフアン・ドミンゴ・ペロンが確立し、その後の数十年で強化されてきた体制です。
ミレイ大統領は、この体制をチェーンソーで切り倒し、100年前にアルゼンチンを世界で最も繁栄した国の一つにした「古典的自由主義」の政策に置き換えることを約束しました。
2023年12月に政権を握って以来、ミレイはこの目的のために政府を縮小してきました。彼の優先事項は、「政府支出の抑制」と「規制緩和」です。
ミレイは予算を約30%削減し、就任1か月目で財政を均衡させました。これにより、より規律ある金融政策が可能となり、大統領就任時に月25%だったインフレ率は、2025年1月には2.2%にまで低下しました。
これまでのところ、ミレイ大統領の経済安定化政策の成功は広く認識されています。
ミレイは、多くの人々の予想をはるかに上回る速さで、経済を危機から回復へと導きました。2024年後半には成長が戻り、賃金は上昇し、貧困率は一時的に上昇したものの、その後は、前政権が遺産として残した40%台を下回る水準にまで低下しましたた。
しかし、ミレイがどれほど規制を撤廃してきたか、そしてその規制緩和がアルゼンチンの成功に果たす役割については、あまり認識されていません。
これは、支出削減と同じくらい重要なことです。
その理由を理解するためには、アルゼンチンの政治が他国とどのように異なるのかを知る必要があります。
アルゼンチンのペロン主義体制
アルゼンチンは70年以上にわたり、ペロンがムッソリーニのファシズム体制を手本に築いたコーポラティズム体制を採用してきました。
その体制の下では、国家が社会を労働組合、業界団体、公務員などのグループに組織し、それらと交渉して国家政策を決定し利害を調整します。
これは、”個人を消し去る”集団主義であり、権力を国家に集中させ、利益団体が政府の支出や規制を通じて恩恵を競うよう促す仕組みです。
この体制は、価格統制、認可制度、経済活動の種類によって異なる為替レート、資本規制、優遇貸付金利、組合への強制加入(および支援)などの介入によって、特定のセクターを保護・促進するための規則の急増を生みました。
ペロン党が確立したこの体制は、自由な取引、競争、生産性を阻害しましたが、アルゼンチン社会に深く定着しました。そして、規制によって与えられた特権は、政治的に撤廃することは困難だったのです。
法学者ホルヘ・ブスタマンテは、「アルゼンチンでは規制が、財政政策以上に富の再分配に大きな役割を果たしている」と指摘しています。
彼はさらに、「規制による希少資源の浪費は、赤字だと知られている国家の経済活動(財政政策)よりも深刻である」と述べています。
特に労働組合は強大な政治力を獲得していました。
ブスタマンテによれば、「その政党(ペロン党)が政権にあるとき、組合は国家の機関に変わり、野党であるときには国家が組合の人質となる」というのがアルゼンチンの制度だそうです。
私たちは、2024年6月にブエノスアイレスでケイトー研究所のカンファレンスを開催しました。
そこで、アルゼンチンの規制緩和・国家改造相のフェデリコ・ストゥルツェネッガーは、ミレイ大統領と他の古典的自由主義者の指導者とともに、同様の指摘をしました。
「ペロン党は現状維持の管理者であり、既得権益の管理者であり、アルゼンチンの保守政党である」とストゥルツェネッガーは述べました。
-ハビエル・ミレイ大統領インスタグラムより (1)
ペロン主義者はこの体制を維持したいかもしれませんが、ミレイの削減は正しいことです。ヒューマン・フリーダム・インデックスによると、ミレイ大統領が引き継いだアルゼンチンは、世界で最も規制の厳しい国の一つでした。規制負担のランキングでは165カ国中、146位だったのです。
ミレイによる1年目の削減
政権を握って以来、ミレイはアルゼンチン官僚機構を大幅に削減してきました。
就任1年目には、省庁の数を18から8に削減(一部は廃止し、一部は統合)し、37,000人の公務員を解雇し、100近い事務局(セクレタリア)および次官局(スブセクレタリア)を廃止し、200を超える下位官僚部門も同様に廃止しました。
ミレイ大統領はまた、規制緩和にも積極的に取り組んできました。
私の同僚であるギジェルミナ・サッター・シュナイダーと私は、保守的な手法を用いて、ミレイ大統領の就任後 1 年間に、1 日あたり約 2 件の規制緩和が実施されたと算出しました。
そのうちの約半数は規制の完全廃止であり、残りは既存の規制を市場志向の方向に修正するものでした。
これらの改革は、合法的かつ憲法に則って実施されており、その主な成果は 2 つの広範な措置によるものです。
第一に、ミレイは政権発足時に366条からなる緊急「メガ法令(megadecreto)」を公布しました。これは、特定の条件を満たす限りアルゼンチン法に則ったものであり、国会によって審査される仕組みになっています。議会が反対しなかったため、メガ布告内の規制緩和の大半は発効しました。
現在アルゼンチンの規制緩和と国家変革担当大臣を務めるフェデリコ・ストルツェネッガーは、 2024年にブエノスアイレスでのケイトー研究所とリベルタッド・イ・プログレソのカンファレンスで講演した
第二に、国会は2024年6月、「基礎法(Ley Bases)」と呼ばれる包括的法案を可決しました。それにより、政府は1年間にわたり追加の規制緩和令を発令する権限を得ました。現在進行中のアルゼンチンの規制緩和の大部分は、この権限の下で行われており、翌月に設立された「規制緩和省(Ministry of Deregulation)」が主導しています。同省の緊急性は明白で、文字通り時間と戦っています。
筆者が2024年11月にストゥルツェネッガー大臣とそのチームを訪問した際、彼の執務室の外には「残り237日」と書かれたカウントダウン掲示板がありました。これは、政府が規制緩和令を発令できる残りの日数を示していたのです。
ストゥルツェネッガーのチームは、法務の専門家や熟練した経済学者たちでで構成されており、
政府の効率化ではなく「自由を拡大する」ことを使命として明確に掲げていました。
そのため、規制を見直す際には、「そもそもその分野に政府が関与すべきかどうか」という根本的な問いから始めていました。
このような方針に従って、ミレイ政権は農業、エネルギー、運輸、住宅といった経済の様々な分野で規制緩和を実施してきました。
改革の優先順位を決めるために、同省では「価格」に注目しています。
ある財やサービスの価格が国際価格と比べて著しく高い場合、その価格差は規制負担が原因であることが多く、ストルツェネッガーはアルゼンチンの規制緩和が価格を約30%低下させる傾向にあると報告しています。
また、同省は「官僚を報告せよ(Report the Bureaucracy)」というウェブポータルを設立し、企業や一般市民から提案を募り、多くの改革につなげています。
一部の改革は手続き上のものです。
たとえば、政府による事前審査なしに企業活動を開始し、その後に「法を守っている前提」で監査するという方式が導入されました。輸入繊維のラベル表示に関してこの「事後」検査方式が適用された結果、繊維価格は29%下落しました。
また、一定期間内に官僚機構が回答しなかった場合に「申請が承認された」と見なす「ポジティブ・アドミニストレーティブ・サイレンス(積極的行政沈黙)」の原則を複数の活動に導入しました。
さらに、政府機関において慣例となっていた法的に認められた世襲的な地位を禁止しました。
規制緩和の影響は多くはまだ測定されていませんが、具体的な証拠や事例は、改革が大きな効果を生んでいることを示しています。
以下は、ミレイ政権1年目の成果の例です。
- 広範な家賃規制の廃止により、ブエノスアイレスの賃貸アパートの供給量は3倍に増加し、価格は30%下落しました。
- 「オープンスカイ政策(航空自由化)」と、小型航空機の所有者による国内輸送サービス提供の許可によって、国内外の航空便の数と路線が増加しました。
- スターリンクなどの企業に衛星インターネットサービスを提供することを許可したことで、これまでインターネットがなかった広範な地域にインターネット接続が提供されました。Jujuy州北西部のある町では、接続料金が90%下がったとの報告があります。
- 「Buy Argentina(アルゼンチン製品を買え)法」(「Buy American法」に類似)が撤廃され、小売店の商品陳列に関する複雑な規定(生産国、生産企業などを含む、どの製品を、どの順序と比率で陳列するか)も廃止されました。
- 市販薬が薬局だけでなく他の店舗でも販売可能になり、オンライン販売の拡大と価格の低下が実現しました。
- 輸入許可制度の撤廃により、衣料品の価格は20%下落し、家庭用電化製品の価格は35%下落しました。
- 公務員が高額な国営航空会社の航空券しか購入できなかった制限が解除され、他の航空会社がブエノスアイレス主要空港に夜間駐機できないという規制も廃止されました。
まだまだ多くの例を挙げることができます。
改革の効果は、アルゼンチン国民に着実に届き始めており、最近の世論調査ではミレイの支持率は50〜55%に達しています。
ミレイ政権2年目~「ディープ・チェーンソー」の開始
大統領就任1周年の国民向け演説で、ミレイはこれまで実施した削減措置は「始まりにすぎない」と述べました。
「私たちは、官庁、局、次官局、公社その他存在すべきでない国家機関を、引き続き廃止していく」とミレイは約束し、さらに踏み込んでこう続けました。
「連邦国家が本来担うべきでない全ての権限や任務は、廃止されることになる。国家が小さくなればなるほど、自由は大きくなるからだ」。
ミレイはここで、「ディープ・チェーンソー(深く切り込むチェーンソー)」を始動させることを宣言しました。
改革の先頭に立っているのがストゥルツェネッガー大臣です。
2月に出された布告により、すべての大臣は管轄下のすべての法律や規制を審査し、30日以内に包括的な規制緩和案を提出するよう指示されました。
約30万件の法律、政令、決議を有する国において、これは容易な作業ではありません。
しかし、ストゥルツェネッガーによれば、政府はすでに全体の20%の法律を廃止または修正しており、最終的には70%に到達することを目指しているとのことです。
さらに、公務員の解雇ペースを加速させる意向を示しています。
規制改革のスピードはすでに加速しています。
1月に、ストゥルツェネッガーは、食料品の輸出入に関する「革命的な規制緩和」を発表しました。
高い衛生基準を満たす国々によって認証された食料品については、今後アルゼンチン政府による追加の認可や登録を必要とせずに輸入が可能となりました。食料品の輸出については、今後は輸出先の国の規制のみに従えばよく、アルゼンチン国内の規制による制約を受けません。
この革新的な改革は、「アルゼンチン国民に安価な食料を、そして世界にはより多くのアルゼンチン産食料を届ける」ことを目的としています。
そしてこれは、アルゼンチン市民からのフィードバックに基づいて、非合理な規制を見直すという同省のアプローチの一例でもあります。
ストゥルツェネッガーは次のように説明しました。
「数多くの企業が、目的地(輸出先)の市場で求められていないにもかかわらず、地元の要件を満たすために信じられないような苦労をしてきた、と語ってくれた。
たとえば、アメリカ市場に参入可能かを確認するためにサンプルを認証したかったある生産者は、まず工場を建設するよう求められた」。
別の例では、アルゼンチンはスイカの輸出業者に対し、輸入先の国とは異なる梱包方法を義務づけていました。そのため、スイカ輸出業者は、アルゼンチンの法律に従って船に荷を積み込み、港を出たらすぐにスイカを再梱包しなければならなかったのです。
他にも多くの事例があります。
2月の政令の一つは、農家による新品種の使用を容易にするもので、これまで義務づけられていた広範な試験の義務を廃止としました。
ストルツェネガーが指摘するように、農業が重要な経済的役割を果たす国において、これらの制限は特に悪影響を及ぼしていました。
「ブラジルは、アルゼンチンの研究者がアルゼンチンの企業で開発した種子を使って、大豆の生産量を3倍にまで増やした。悲劇的なのは、ブラジルの生産量増加が穀物の価格を低下させている一方で、私たちは自国の技術にアクセスできないため、ほとんど停滞していることだ!」
「ペロン党が築いた体制は、自由な取引、競争、生産性を阻害したが、あまりにも根深く定着してしまっていた。規制によって与えられた特権は、政治的に撤廃するのが困難だった」。
また別の政令により、税関検査を待つ輸入コンテナの保管コストが、概算で80%削減されました。これは、輸入業者が国税庁が運営する施設だけでなく、競合施設にも保管できるようになったためです。このコスト削減は、他の数多くの規制改革と同様に、アルゼンチンの消費者への恩恵となります。そして2年目に「規制改革のチェーンソー」がより深く速く進めば、その恩恵はさらに顕著になるでしょう。
世界の模範
「アルゼンチンを再び世界で最も自由で繁栄した国の一つに戻す」というミレイの使命は、まさに至難の業です。
しかし、この目標を達成する上で、「規制緩和」は中心的な役割を果たしており、改革の道はまだ半ばであるにもかかわらず、ミレイはすでに多くの人々の期待を上回っています。
ミレイの規制緩和は、コストを削減し、経済的自由を高め、腐敗の機会を減らし、成長を促進し、破綻した腐敗政治体制の転換に貢献しています。
アルゼンチンの規制緩和は、その範囲、手法、規模において、「過剰に規制された世界」に対して一つの模範を示しているのです。
編集部より:この記事は自由主義研究所のnote 2025年7月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は自由主義研究所のnoteをご覧ください。