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前回は、「キライ」という感情がなぜ生まれるのか、その脳科学的なメカニズムについて解説しました。
今回は、この避けることのできない感情とどう付き合っていけばよいのか、実践的な方法をご紹介します。
「これで毎日がラクになる! キライな人がいなくなる」(堀もとこ著) あさ出版
[本書の評価]★★★★(80点)
【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
感情を認める勇気
まず大切なのは、「キライ」という感情を否定しないことです。
「風呂キャンセル界隈」という言葉が話題になったように、面倒なことから逃れたいという気持ちは普遍的です。お風呂に入ることすら面倒に感じることがあるのですから、複雑な人間関係において「キライ」を感じることは、むしろ自然なことです。
実践的には、感情が湧いてきたら「今、私は〇〇さんに対して不快感を感じている」と心の中で認めることから始めましょう。否定も肯定もせず、ただ事実として受け止めるのです。これだけでも、感情に振り回される度合いがぐっと減ります。
感情は自動的に湧いてくるものですが、行動は選択できます。これが、人間関係を良好に保つ鍵となります。
イライラを感じたときは、深呼吸が効果的です。4秒かけて息を吸い、7秒間息を止め、8秒かけてゆっくりと吐き出す。この「4-7-8呼吸法」は、副交感神経を活性化させ、感情を落ち着かせる効果があります。
また、反応する前に10秒数える「10秒ルール」も有効です。カッとなって言い返したくなったとき、心の中で10まで数えることで、冷静な判断ができるようになります。
さらに、「この人も何か事情があるのかもしれない」と視点を変えるリフレーミングも重要です。相手の行動の背景を想像することで、「キライ」という感情が和らぐことがあります。たとえば、いつも遅刻する同僚は、もしかすると家族の介護で朝が大変なのかもしれません。
適切な距離感という知恵
すべての人と親友になる必要はありません。これは、決して冷たい考え方ではなく、お互いを尊重する知恵なのです。
職場の同僚なら「プロフェッショナルな関係」、親戚なら「礼儀正しい関係」というように、それぞれに適した距離感があります。無理に近づこうとせず、お互いが心地よい距離を保つことが、長期的には良好な関係につながります。
「キライ」という感情は、完全になくすことはできません。しかし、それを「自分の大切なものを教えてくれるセンサー」として活用することは可能です。
たとえば、約束を守らない人が苦手なら、それは「信頼関係を大切にする」というあなたの価値観の表れです。この気づきは、自分がどんな人間関係を築きたいかを明確にしてくれます。
グレーゾーンの美しさ
人間関係は「好き」か「キライ」かの二択ではありません。
「この部分は苦手だけど、あの部分は尊敬できる」というグレーゾーンを受け入れることで、より柔軟な人間関係が可能になります。完璧な人間などいないように、完全に好きな人も、完全に嫌いな人もまた存在しないのです。
誰かの長所と短所の両方を認めることができたとき、私たちは真の意味で成熟した人間関係を築けるようになります。
「キライ」という感情は、人生という航海における羅針盤のようなものです。
それは時に嵐を告げ、時に安全な港を示してくれます。大切なのは、その羅針盤に振り回されることなく、自分の舵をしっかりと握ることです。これこそが、多様性の時代を生きる私たちに必要な、心の航海術なのではないでしょうか。
感情は私たちの敵ではありません。むしろ、自分自身を深く知り、より豊かな人生を送るための大切な道しるべなのです。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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22冊目の本を出版しました。
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