出口里佐です。
今年2025年の土用の丑の日は、7月19日と31日の二度。まだ一度、夏の滋養をいただく機会が残されています。
「土用の丑に鰻を食べる」という習慣の起源は、江戸の発明家・平賀源内の機転にあったと伝えられます。夏場に売り上げが落ちる鰻屋に相談された源内は、「本日土用丑の日」と書かれた貼り紙を勧めたところ、これが大当たり。今では当たり前になったこの習慣も、江戸の知恵と広告の力が生んだ文化といえるでしょう。
本来、天然鰻の旬は秋から冬。しかし、現代では季節を問わず美味しい鰻を味わえる名店が揃っています。そのひとつが、昨年帝国劇場の地下から新橋の第一ホテル東京の地下1階へと移転した老舗、「きくかわ」です。

きくかわ、第一ホテル東京店入口。

江戸情緒のある店内
地下街に広がる江戸の風情
新橋駅・日比谷口を出て、SL広場の右手、交差点の向こうにそびえる第一ホテル東京。その地下へと降りると、落ち着いた空間に暖簾がかかり、どこか江戸情緒を感じさせる佇まいが現れます。

半個室のようなボックス席。浮世絵風ポスターもグッド。
訪れたのは平日の13時半頃。ランチタイムの混雑もひと段落し、すぐに半個室のボックス席へ案内されました。店内の静けさが、これから始まる至福のひとときを予感させます。
焦らされる時間も、また楽し
この日は夫とともに「鰻重 ロ」を注文。かつてより価格は上がったものの、年に一度の贅沢とあれば気になりません。ご飯は控えめでお願いし、名物の浅漬け「キャベジン」もそれぞれ一皿。飲み物は、昼ながら夫はビール、私はサービスのお茶を。
「鰻は蒸すところからご用意しますので、少しお時間をいただきます」との店員の言葉に頷きつつ、ゆったりとした時間が流れていきます。
ほどなくして運ばれたキャベジンは、塩加減も程よく、冷たさが心地よい一皿。猛暑のなか歩いてきた身体に染み入る優しさがあります。

キャベジン。程よい塩加減、ひんやりした浅漬け。
いよいよ主役、鰻重の登場
そして、待望の鰻重が登場。肝吸い、奈良漬、季節の果物まで添えられたお膳は、見た目にも贅沢そのもの。蓋を開ければ、香ばしい炭火の香りとともに、一尾半の鰻が美しく折りたたまれて現れます。

鰻重の登場。奥の夫の鰻重の山椒粉はかけすぎですよね?
テーブルの端に置かれた瓢箪型の山椒入れ。香りを損なわぬよう、少量をまんべんなく振りかけるのが私流。夫の重を横目で見ると、ややかけ過ぎの気配。薬味は「控えめ」が肝要です。

鰻重のロは、一尾半。折り曲げられられるくらいのボリュームです。立ち昇る香ばしい炭火焼の香り!

フクロウの絵が楽しい、レトロなランプも店内廊下に。
ひと口いただけば、ふっくらとした鰻の身と香ばしさが舌の上でとろけ、タレの染み込んだご飯とともに、至福の世界へ。気がつけば、夫婦ともに無言で箸を進め、完食していました
地下道の涼風とともに
帰り道は、ホテルの地下からJRや銀座線新橋駅に直結する地下通路へ。行きのじりじりと照りつける日差しとは打って変わり、涼やかな通路を通りながら、「やっぱり鰻って元気が出るね」と夫婦でしみじみ。

第一ホテル東京から新橋駅までの地下通路。地上よりはずっと涼しい!!
暑い夏の日。季節の風物詩としての鰻重を、ただの「精をつける食事」にとどまらず、江戸から受け継がれた文化として味わってみてはいかがでしょうか。きくかわの一膳は、そんな時間を提供してくれます。
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