ポーランドのドナルド・トゥスク首相は「欧州とポーランドは早ければ2027年にロシアと大規模な紛争が発生する可能性がある。今後2年間を最大限に活用し、ポーランド情勢の安定化と安全保障を確保しなければならない」と述べている。ポーランド国営通信社(PAP)が報じた。
海軍潜水艦部隊の発展に関する会議で語るプーチン大統領、2025年7月24日、クレムリン公式サイトから
トゥスク首相の上記の発言は数年前ならば単なる政治的プロパガンダで済ませることができたが、ロシアのプーチン大統領の動向を見ると、そうとは言えなくなってきている。西側の専門家は、ロシアは遅くとも2030年までにNATO(北大西洋条約機構)と軍事衝突すると見ている。ポーランドのトゥスク首相は、早ければ再来年にも紛争が発生する可能性があると警告しただけで、決して突飛な発言ではないのだ。
トゥスク首相によると、NATOの新最高司令官アレクサス・グリンケヴィッチ氏も同様の見解を有し、「ロシアと中国は2027年までに非常に強くなり、NATOと米国と対決を求めるようになる可能性がある」と見ているのだ。ちなみに、ドイツのボリス・ピストリウス国防相はロシア軍の欧州侵攻を「2029年」と予測している。そのシナリオに沿って、EU諸国は再軍備を進めており、2030年までにロシアの攻撃を撃退できることを目指しているというわけだ。
軍事専門家のゾンケ・ナイツェル氏は南ドイツ新聞で「今後3年間が最も危険な時期だ」という。ロシアは大規模な再軍備を進めており、ウクライナでの損失にもかかわらず、120万人の兵士を擁している。この軍備上の優位性は、NATOが追いつくまでだ。つまり、プーチン大統領は,NATOと対決すべきか否かを決断しなければならないが、その持ち時間は限られているのだ」と説明し、「今後数年間はロシアにとって非常に重要となる」というのだ(この項、ドイツ民間放送ニュース専門局NTVのHPから引用した)。
ロシア外務省に勤務していた外交官ボリス・ボンダレフ氏は2022年、プーチン大統領のウクライナ戦争に抗議して西側に亡命し、昨年、プーチン大統領のウクライナ戦争の目的などを解説した著書「Im Ministerium der Lugen」(嘘の省で)を出版した。同氏は「欧州ではプーチン大統領に反対する人がいかに少ないかに驚かされる。西側諸国が何をしようとウクライナは破滅する運命にある、戦争におけるロシアの勝利は避けられない、と考えている西側指導者が多い。ロシアに少し勝たせて、ウクライナの一部を併合すれば、プーチンは黙るだろう、というのだ。2008年には、プーチンはアブハジアと南オセチアだけを欲しがり、あとは黙るだろうという声が聞こえた。2014年には、プーチンはクリミアを併合し、ドンバスを掌握した。アンゲラ・メルケル(元独首相)のような西側諸国の政治家たちは、最初は見て見ぬふりをし、それからプーチンはそれ以上は進まないだろう、我々が彼のガスを買うからいいだろうと述べていた。しかし、2022年には、周知の通り、プーチンはさらに踏み込み、ウクライナ全土を征服しようとしている。驚くべきことに、ここにきても依然、『彼にウクライナ東部を渡せば、あとは黙るだろう」という空気は広がっていることだ」と警告を発している。
同氏によると、「ロシアの攻撃を受けた場合、バルト諸国は他のNATO加盟国全員の防衛に頼ることはできない。たとえそうする義務があるとしてもだ。プーチンは、世界が長らく見てきたハイブリッドなパターンに従い、一歩一歩、この目標に向かって進んでいくだろう。経済的、政治的、武力的な挑発、あるいは人為的に作り出された不安を通じて、バルト諸国の不安定化を試みるだろう。彼は秩序の回復と『ロシア系少数民族の保護』を要求し、密かに事態をさらにエスカレートさせる。プーチン大統領はその後、全てを解決すべく軍隊を派遣するだろう。NATOの介入を阻止するため、クレムリンの指導者は核兵器の使用も辞さないだろう」というのだ(「亡命露外交官『西側はプーチンを倒せ』」2025年7月18日参考)。
いずれにしても、トゥスク首相の「2027年説」が当たるか、ピストリウス国防相の「2029年説」が当たるかは現時点では定かではないが、明かな点は欧州側にとっても、そしてプーチン大統領にとっても残された時間は余り多くはないことだ。西側にとってはロシア軍の侵攻阻止のための防衛体制の確立までに、プーチン氏にとっては、NATOが結束してロシア軍の軍事的優位性を克服するまでにだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年7月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。