ロシア外務省に勤務していた外交官ボリス・ボンダレフ氏は2022年、プーチン大統領のウクライナ戦争に抗議して西側に亡命し、昨年、プーチン大統領のウクライナ戦争の目的などを解説した著書「Im Ministerium der Lugen」(嘘の省で)を出版した。ドイツ民間放送ニュース専門局NTVは17日、プーチン氏の隠された狙いを分析したボンダレフ氏の寄稿文を掲載した。

ボリス・ボンダレフ氏、ドイツ公共放送ARDの番組「Brennpunkt」から 2025年3月6日
ボンダレフ氏は「プーチンは欧州を支配するために北大西洋条約機構(NATO)の崩壊を企てている。今のところ、彼の計画は順調に進んでいる。欧州ではプーチン大統領に反対する人がいかに少ないかに驚かされる」と語る。
そして「西側諸国は、ロシアに対して経済、政治、外交、軍事の両面で強烈な圧力をかけ、プーチンを打倒するためにエリート層と個別に交渉することで、モスクワの体制に亀裂を生じさせなければならない。プーチンの側近たちは、自らの思想のために命を捨てる覚悟のある狂信者たちだけで構成されているわけではないからだ。大多数の人々は宮殿で長く幸せに暮らしたいと願っている」と分析し、西側に「プーチン打倒」に乗り出すべきだと主張している。
以下、同氏の寄稿文の概要だ。
「ドイツ国民は、ロシアのプロパガンダと全く同じ感覚を植え付けられている。すなわち、西側諸国が何をしようとウクライナは破滅する運命にある、戦争におけるロシアの勝利は避けられない、と考えている。ロシアに少し勝たせて、ウクライナの一部を併合すれば、プーチンは黙るだろう、というのだ。2008年には、プーチンはアブハジアと南オセチアだけを欲しがり、あとは黙るだろうという声が聞こえた。2014年には、プーチンはクリミアを併合し、ドンバスを掌握した。アンゲラ・メルケル(元独首相)のような西側諸国の政治家たちは、最初は見て見ぬふりをし、それからまた別の見方をし、プーチンはそれ以上は進まないだろう、我々が彼のガスを買うからいいだろうと述べていた。しかし、2022年には、周知の通り、プーチンはさらに踏み込み、ウクライナ全土を征服しようとしていることが判明した。驚くべきことに、『彼にウクライナ東部を渡せば、あとは黙るだろう」という空気は今も広がっていることだ」
「これは甚だしい誤算だ。2021年12月、プーチンはNATOに対し、1997年の境界線まで撤退するよう求めた。同時に、彼はロシアに軍事同盟への新規加盟を拒否する権限を与えるよう要求した。言い換えれば、旧東ドイツ領土を含む旧ワルシャワ条約機構加盟国に対する権限をロシアに与えることを要求したのだ。彼の目的はウクライナの征服のみではなく、ソ連の復活というビジョンを実現するために、ライバル勢力を排除することにある」
「ウクライナ、あるいはその一部をロシアに割譲せよという要求に屈するのは間違いだ。西側諸国はプーチン大統領の侵略に報い、必要であれば軍事力を用いても、独裁者と決然と戦う能力がないことを示すことになる。そうなれば、中国もそれに追随する勇気を持つだろう。世界秩序の終焉を決定づけることになる」
「トランプ氏は長年、ウクライナ戦争を‘ヨーロッパの戦争‘かのように振る舞い、『1日以内に終結させる』と約束していた。トランプ氏が『プーチン大統領が好戦主義者であり、ナイスガイではないこと』に気付くまでには長い時間がかかった。しかし、トランプ氏はプーチン大統領と距離を置きたくない。そこでトランプ氏は50日間の最後通牒を発したが、それは『プーチン大統領がウクライナで殺戮を続ければ、我々がどうするか見守る』ということを意味するに過ぎない。トランプ氏はこの行動によって、自らの無力さとプーチン大統領の核兵器に対する恐怖を全世界に露呈させている」
「ウクライナの敗北は、それがどのようなものであれ、何よりもNATOの弱点と侵略に対する自衛能力の欠如を露呈することになる。ロシアの攻撃を受けた場合、バルト諸国は他のNATO加盟国全員の防衛に頼ることはできない。たとえそうする義務があるとしてもだ。プーチンは、世界が長らく見てきたハイブリッドなパターンに従い、一歩一歩、この目標に向かって進んでいくだろう。経済的、政治的、武力的な挑発、あるいは人為的に作り出された不安を通じて、バルト諸国の不安定化を試みるだろう。彼は秩序の回復と『ロシア系少数民族の保護』を要求し、密かに事態をさらにエスカレートさせる。プーチン大統領はその後、全てを解決すべく軍隊を派遣するだろう。NATOの介入を阻止するため、クレムリンの指導者は核兵器の使用も辞さないだろう。NATOが反応しなければ、それは終焉であり、プーチン大統領は目的を達成することになる」
「NATO崩壊後、米国に頼ることができなくなった欧州諸国は、プーチンのルールに従わざるを得なくなるだろう。彼の勢力圏は東欧だけでなく、西欧の大部分にまで拡大するだろう。これがウクライナ戦争の背後にあるプーチンの壮大な計画である。彼を阻止する唯一の方法は、モスクワの政権を打倒することだ。これを達成するために必要な包括的戦略は、ウクライナへの強力な軍事支援以上のものでなければならない。目標はプーチンの打倒でなければならない」
「西側諸国はプーチンに語りかけなければならない。聞きたいことだけを言い、その後に無意味に長い最後通牒を突きつけるトランプ氏のようにではなく、明確な声明を出さなければならない。『もうたくさんだ、プーチン大統領、もうたくさんだ、軍隊を帰国させろ!』と。代替案は、米国、欧州、そしてNATOの静かな敗北と屈辱である。西側諸国にはこれを阻止するあらゆる手段と能力を有しているにもかかわらずだ。プーチンは今日、NATOを破壊するという目標に決定的な一歩を踏み出した。西側諸国の権力の中枢において、このことが未だに理解されていないのは驚くべきことだ」

プーチン大統領 クレムリンHPより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年7月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






