ニューヨークの国連本部で28日、パレスチナの国家承認を求める国際会合が始まった。同会合はフランスとサウジアラビア両国が主催したもので、近未来のイスラエルとパレスチナの2国家共存の実現を目的としている。ただし、2国家共存案は久しく外交上のテーマだが、その実現の可能性はパレスチナのイスラム過激テロ組織「ハマス」がイスラエル領に侵入し、1200人以上を殺害し、250人余りを人質にした奇襲テロ事件(2023年10月7日)以来、一層非現実的となってきている。
国連でパレスチナとイスラエルの2国家共存に関する国際会合が開催、2025年7月28日、国連広報部提供
にもかかわらず、フランスのマクロン大統領は24日、9月の国連総会で同国がパレスチナの国家承認を表明すると宣言したことで、2国家共存案が再び浮上してきたわけだが、イスラエルと米国らはフランスの表明に強く反発、イスラエルは「パレスチナの国家承認はハマスのテロに報酬を与えることになる」と非難している。
国連193か国中、パレスチナの国家承認をしている国は144か国と過半数を大きく上回っているが、米国や英国の国連安保常任理事国が拒否している以上、正式の国家承認は難しい。
例えば、国連に加盟する場合、安全保障理事会の勧告と総会の承認を必要とする。「国家の条件」としては、「領土」「国民」「主権」の3点をクリアしていなければならない。
現在のパレスチナは上記の国家の条件、国連の加盟国への条件を満たしているだろうか。「主権」でも、国民を統治する政府が存在するだろうか。パレスチナ自治政府が存在するが、同自治政府では久しく腐敗、汚職問題が指摘され、その行政能力は疑われてきた。一方、ガザ地区ではこれまでテロ組織「ハマス」が実質的統治してきた。ちなみに、国連は2012年11月、パレスチナ自治政府に「非加盟オブザーバー国家」としての参加資格を認めている。
トランプ米大統領はフランスのパレスチナの国家承認宣言について、「タイミングが悪い」と述べているが、それはイスラエル軍のガザ攻撃がまだ完全には停戦していない状況下で、パレスチナの国家承認を下す時期ではないというわけだ。
また、マクロン大統領のパレスチナ国家承認という宣言は、ガザ地区でのイスラエル軍の戦闘と、パレスチナ人への人道危機に対して、イスラエルに圧力を行使するという意味合いが強い。すなわち、国家承認という非常に国際法上、政治・外交上、高度な判断が必要なテーマに対して、パレスチナ人への人道的支援を阻止するイスラエルへの制裁といった道義的理由が大きな契機となっていることだ。また、ヨルダン川西岸地区の状況は、ここ数ヶ月、イスラエルの入植地によって悪化し続けている。このような状況下でパレスチナの国家承認は「時期尚早」(メローニ伊首相)と言わざるを得ないのだ。
2015年に先駆けて国家承認したバチカン市国の国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿は、日刊紙「ラ・レプブリカ」(28日付)で、「2国家共存が唯一の実行可能な道だ」と述べ、マクロン大統領の国家承認発言を歓迎している。バチカンは長年、イスラエルとパレスチナの2国家共存こそ、聖地パレスチナの平和に向けた最善の策だとの立場を取ってきた。
なお、ローマ教皇レオ14世は今月21日、ガザ紛争についてパレスチナ自治政府のマフムード・アッバース大統領と電話会談をし、2015年1月21日に調印され、2011年1月2日に発効した聖座(バチカン)とパレスチナ自治政府間の外交合意10周年を祝っている。
ちなみに、「信仰の祖」アブラハムから派生したユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3宗派代表が2014年1月8日、ローマ教皇フランシスコの招きでバチカン教皇庁に結集し、中東の和平実現のために祈祷会を開催したことがあった。フランシスコ教皇のほか、、ユダヤ教代表のイスラエルのペレス大統領、そしてイスラム教代表のパレスチナ自治政府アッバス議長の3人がバチカン内の庭園に集まった。
フランシスコ教皇は当時、「憎悪と暴力の悪循環を突破するためには“兄弟”という言葉がある。頭を天に向け、われわれの共通の父親を見つけることができれば、われわれは兄弟だと分かるのではないか」と述べたことがある。現実はそんなにシンプルではないかもしれないが、解決策は結局そこに帰着するのではないか。
マクロン大統領のパレスチナ国家承認発言を「売名行為」と誹謗することは正しくはないが、イスラエルとパレスチナ間の現状は2国家共存の段階まで来ていない。時期尚早の「2国家承認」は状況をさらに悪化させる危険性が排除できない。
マクロン大統領インスタグラムより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年7月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。