あなたはその企業に入社して本当に満足か?:「上げ膳据え膳」待遇の落とし穴

私の会社では毎年、日本からインターンシップの学生を1名ほどお預かりしています。もともと日本の若者や学生さん達とは雇用を始め、NPO活動などを通じ一定の接触があるのですが、より親身になって教えてみたいと思ったのと学生の心のうちをもっと知ってみたいと思ったのです。

今年受け入れる学生さんも海外事業にとても興味があるということなのですが、もちろん、その学生さんにしてみれば漠としたもので何故とか、どうして、という質問にはとても答えられるレベルにはありません。一方、昨年インターンシップで来た学生さんが今年4月に就職して東京勤務になり落ち着いてきたのでぜひ会いたいというので9月に東京で会うつもりにしています。彼がなぜ、私に会いたいのかその理由はわかっています。就職先を間違えたのです。会いたいのはその相談。

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学生が企業の就活を始めるのは大学2年生ぐらいからかもしれません。ですが、私がそれぐらいの年齢、つまり20歳ぐらいの時に自分が何をやりたいかなど明白なビジョンはありませんでした。大学4年間に勉学にそれなりに励み、クラブ活動して、海外旅行に行くために必死にバイトして、外交官になりたくて1年間は大学図書館に籠ってみたりと、いろいろもがきました。外交官試験に落ちて、その時、現実にぐっと引き戻されたとき、「海外」「活躍」「枠にはまらない」…といった断片的なワードが頭に浮かびあがり、大学4年の6月から就活をしたのです。

当時はまだ間に合う時代でした。問題はそれら断片的ワードだけでは会社は絞れないのです。そこで今度は手当たり次第に業種も何も関係なしでとにかく海外に出られそうな会社に当たります。建機メーカー、専門商社、航空、プラント、そしてゼネコン。航空を除き、基本的にBtoBの企業を選んだのはひねくれていたからかもしれません。私の大学なんてブランド大好き学校ですから「内定出たよー」「どこどこ?」「〇〇さ」「うゎーすごー!」という「時のヒーロー、ヒロイン」になるのが華でした。よって私が「大学から渋谷駅の通学路にあるあの〇〇建設」というと周りからは無反応だったわけです。

就職してからも「あちゃー」でした。建設会社の特性を十分理解していなかったのです。現場配属初日に現場所長から「現場は技術者がピッチャー。君は事務屋だから現場のキャッチャーになれ」と言われたとき衝撃的ショックで「辞めたる!」と思ったのですがぐっとこらえ数か月。その頃、私の直属の上司が嫌で嫌で書店で「嫌な上司を持った時の本」を買い、留飲を下げていました。

学生なんてバイトぐらいはすれど社会人の世界など垣間見るだけです。ましてやこれだけ世の中が進化してくると自分にどんな才能があり、自分の能力を生かせるところはどんな分野かなどわからないのが当たり前であります。故に就職3年で3割の退職率というのは長年変わらない黄金比率でもある訳です。

私は大学時代とは「経験値を積み上げる4年」だと思うのです。高校までは勉学、特に偏差値などでいかにより上級の大学に入るか、といったほぼ全員が一方向に向いたマラソン競争なのですが、就活はそれこそ、山に入り、トレイルを歩き、分かれ道で「どっちに行く?」と自問自答しながらできるだけ多くの世界をのぞき見をして最終ゴールに到達するものです。ところが今や大学3年生ぐらいで内々定が出てしまうわけで、それは学生にとっても企業にとっても不幸でしかないのです。なぜならその「恋愛予約ゲーム」は1年後、1年半後に一緒になりましょうね、というお約束(予約)でしかなく、一緒になった後、必ずしも相思相愛が続くとは限らないのです。野心がある学生ほど辞める勇気があるのもこれまた事実なのです。

ひと昔前と違い、若者の人材流動化は激しくなっています。つまり企業にとっては20歳代中盤から後半ぐらいの経験者を拾っていった方が双方ウィンウィンの関係になると思うのです。私は以前、日本の就活においてテレビでCMを打つような一流企業や名の知れた企業ほど学生人気が高いけれど、企業が上げ膳据え膳で学生を本社のマーケティング部などに配置するなどのちやほやには否定的意見をしました。そうではなく、まずは子会社、関連会社で3年間修行させる「新入社員全員転籍スタート」でもよいと思うのです。そこからよじ登って親会社に戻って来い、という目標設定の方がわかりやすい気がします。

人事担当者からすればそんなことすれば学生が集まらないというでしょう。集まらないということはオタクの会社のブランドだけに興味がある薄っぺらな学生を企業が囲い込んでいるだけですよ、と私は申し上げたいです。逆に言えば学生に甘えさせるな、とも言いたいところです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月31日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。