絶対に採用してはいけない人

黒坂岳央です。

世の中には「採用してはいけない人」が存在する。企業は一度、こうした人を採用してしまうと、時に会社が傾くほどの大損害を被る。多くは「それは企業の教育が不足しているからだ」という反発を覚えるだろうが、その発想は性善説に根ざすものにすぎず、現実的に矯正が難しい人は存在する。

本記事は、特定の個人や属性を否定する意図は一切ない。「採用すべきでない人材」といっても別の場所では活躍することもあり得る。

あくまで、組織運営の現場における「採用と教育」の現実を冷静に見つめ直し、生産性と健全性を保つ方法論を考察する意図を持って書かれた。

Yuto photographer/iStock

採用してはいけない人

企業経営におけるテーマに「採用が9割」という言葉がある。これは耳障りのいい響きからの言葉ではなく、まったくの誇張ではない。実際に、多くの組織では「入れるべきでない人物を採用しないこと」は健全な会社を継続させる上で大変大きなファクターとなる。

実際によくある話でスキル不足ながらも「やる気がありそうだから」という理由で採用した人材が、現場でトラブルを繰り返したり、自分勝手に働いて周囲に迷惑をかける。

また、会社の備品を盗んだり、逆恨みした企業のデータを破壊して訴訟されるなど、反社会的な行動を繰り返して暴れまわる事例がある。こうした問題人材のフォローに管理職や周囲のメンバーが大変な労力や時間を割かれることで、優秀な社員から離職してしまうという連鎖が起きるのだ。

もちろん、教育によって変化・成長する人材も存在する。だがその割合は現実的に見てかなり少数である。

もしかしたら自分も「企業にとって難しい人材」の一例かもしれない。筆者は会社員をしていた時期もあったが、独立心の引力に引かれて会社をやめた。もちろん会社員として働いている間は自分なりに必死に努力したつもりであり、当たり前だが反社会的な行動など一切していない。だが、自分自身の能力は組織でチームワークで働くスタイルではパフォーマンスを出しきれないと感じることが多く、おそらく研修や教育を受けてもそこは変わらなかっただろうと考える。

重要なのは、教育の価値を否定することではなく、「教育で変われる部分」と「教育では変えられない部分」を冷静に見極める力である。

人は基本的に変わらない

「他人と過去は変わらない。変えられるのは自分と未来」という有名な話がある。「自分は変わりたい、変わろう」と願う人間は変われるが、そうでない人を変えることは基本的に出来ないのだ。そしてこの話には科学的な裏付けが存在する。

心理学の世界では、性格は極めて硬直的とする研究が多い。「ビッグファイブ理論」によれば、誠実性や協調性、情緒安定性といった特性は、成人後は大きく変わりにくいとされる。たとえば「自己中心的」「責任回避傾向が強い」「対人関係でトラブルを起こしがち」といった傾向は、教育によって根本から変えるのは難しい。

一方で、スキルや知識といった要素は、本人の意欲と適切な環境があれば改善が可能である。この科学的裏付けからも「スキルや経験は伸ばせるが、人格を変えることは難しい」ということだ。

性善説と文化的期待の落とし穴

日本の企業文化には、「人は本来、善である」という性善説的な採用観が色濃く存在する。これは教育によって矯正・育成できるという前提に基づいているが、実務の現場ではそれが通用しないケースも多い。

とくに近年では、外国籍人材や異なる価値観を持つ人材の採用が進んでいる。多様性そのものは歓迎すべきであるが、全員を「日本的な価値観に矯正する」というアプローチには限界がある。たとえば、個人主義を強く尊重する文化圏では、組織や集団の利益を優先する日本式の協調性が理解されにくいことがある。

筆者は多国籍な人材がいるグローバル企業で働いていた時期があったが、外国人を「根っこから日本人のように振る舞い、発想するビジネスマン」に変えることは現実的ではないと思える。

一方で接客や言葉遣いなどは「スキル」の領域として、多くの外国人労働者が努力してそれらを獲得している。(もっとも、自分のいた環境ではそもそも、日本人らしい振る舞いは求められず、必要なのは「結果」だけだったのだが)。ここで言いたいのは根本的な気質、性格、人格は教育で後天的に変えることは難しいということだ。

会社は「自社に入れてはいけない人材」を学歴、経歴、適性試験、面接など多くのフィルタリングで選別する。応募者側にとっては面倒に感じるプロセスだが、採用する会社にとっては社運がかかった命がけの活動である。

特に日本は一度正社員で採用してしまうと、その後会社都合でやめさせることはハードルが高いのだ。

 

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