お盆に帰省しない令和の現代人

黒坂岳央です。

2025年の調査によれば、ひとり暮らし世帯の約6割が「お盆は帰省しない」という。

理由の上位は「自宅でのんびり過ごしたい」「仕事や予定がある」であり、交通費や混雑の負担は一因にとどまる。

かつては「お盆=帰省」という国民的大移動が当たり前であったが、その常識は確実に変わりつつある。

korinnna/iStock

国民大移動の非効率さ

全国民規模で同じ時期に移動することは、経済的にも物理的にも大きな負担を伴う。

鉄道・航空のピーク料金は最繁忙期で最大400円(JR期別料金の場合)上乗せされ、座席確保も困難になる。宿泊施設も同様に価格が高騰し、サービス品質の低下や混雑によるストレスも甚大だ。

大渋滞を映す高速道路の映像は、いまなおテレビ番組のお盆風物詩となっている。これは個人にとっても、社会全体にとっても非効率な構造である。

この現象は日本だけではない。海外にも大型連休の一斉移動は存在する。

たとえば中国の春節(旧正月)は世界最大級の人口移動であり、2025年は過去最高規模を更新した。規模は異なるが、本質は同じであり、「一斉ピーク」が混雑やインフラ負荷を極限まで高めることは世界共通の課題である。

ズラシ帰省をする人たち

令和になり、帰省行動のパターンは大きく変わっている。その背景にあるのが「ズラシ帰省」である。

厚生労働省の統計では年休取得率は過去最高の65.3%に達し、計画的に休暇を取得できる人が増えている。旅行業界の調査でも「お盆時期を避けて長期休暇を取る」傾向が確認されており、繁忙期を外すことで交通費・宿泊費を抑え、混雑も回避できる。

筆者自身もかつて派遣勤務時代や東京で会社員をやっていた頃、帰省や旅行は必ず閑散期にずらし、逆にお正月やお盆は割増賃金で働くことを選んでいた。お盆やお正月をわずか1か月ズラすだけで、費用は数割減、混雑は激減する。今年もお盆の時期の「前」に実家の人間と再会していた。

近年はこうした行動を取る人が珍しくなくなった。

そもそも実家に帰らない

一方、時期をズラすのではなく、そもそも実家に帰らない人も増加している。その背景には娯楽や交流手段の多様化がある。

総務省の調査では有料動画配信サービスの利用者は年々増加し、2024年には3,800万人を超えた。オンラインゲームやSNS、趣味活動のコミュニティなど、物理的な移動を伴わずに満足感を得られる環境が整っている。

かつては親や旧友と直接会うための帰省が主目的だったが、今はオンラインで日常的に繋がれるため、その必要性は相対的に低下している。

もちろん、帰省には家族との再会や地域とのつながりという重要な価値がある。総務省の統計によれば、高齢者単独世帯は増加を続けており、対面での交流はますます重要になっている。

重要なのは「帰るか否か」ではなく、「いつ、どのように帰るか」である。短期間でも質の高い再会を実現すること、オンラインと組み合わせて接触頻度を高めることが、現代の合理的な親孝行と言えるだろう。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。