FIREするよりも人生を豊かにできる方法

一時ほどのブームは去ったようですが、相変わらずFIREに対する憧れを持っている日本人が特に若者に多いようです。FIREとは「Financial Independence, Retire Early(経済的自立と早期リタイア)」の略称で、資産形成を早めに達成して仕事をしないで生活するライフスタイルを指します。

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仕事を早くやめたいという考え方は「労働は美徳」といった伝統的な日本人の価値観とは真逆です。しかし私は決して悪いこととは思いません。満員電車に乗って会社に出かけ、好きでもないメンバーと一緒に嫌な仕事をストレスを溜めてまでやる必要はありません。

しかし、3年前のブログにも書いたように働くことを完全に止めるというFIREはやめた方が良いと思います。

確かにFIREした人たちは時間の自由を手に入れて満足するかもしれませんがその喜びは長くは続きません。好きな本を読んだり、ジムで運動したり、友達とお酒を飲んだり、パートナーと旅行に行ったりするのは楽しくても、いずれ飽きてしまいます。

なぜなら、FIREによる自由は自分の満足感を満たすものの、社会との接点はなくなり周囲からのリスペクトもありません。人間とは承認欲求によってより高い満足感を得ることができるのです。

ロビンソンクルーソーのように無人島で1人で生きていけるような特殊なメンタルがある人以外はいずれ行き詰まります。

FIREをおススメしない理由はそれだけではありません。FIREは経済的に極めてリスクの高い選択肢です。例えば当てにしていた資産や収入が想定外に減少すればリカバリーする方法はありません。

例えばインフレが進めばインフレ率以上に運用していかなければ資産が目減りしていくことになります。あるいは、保有する不動産の空室率が高まって賃料が減少したり、修繕費用が想定以上にかかるといった展開もあり得ます。

FIREしてから経済的に困窮して仕事に戻ろうと思っても労働環境は変化しており、自分が望むような仕事ができる可能性はありません。

だから、私が提案したいのはFIREではなくFILW(financial independence life worker)です。

つまり、経済的自立を実現しながら、自分がやりたい仕事だけをやる生き方(ライフワーカー)です。

すべての仕事がつまらないわけではなく、自分がやりたい仕事とやりたくない仕事が存在します。

やりたくない仕事ばかりやらされているから、仕事から逃避してFIREしたくなるわけです。

自分が時間を忘れて取り組めるような仕事で、社会から必要とされているものであれば、やりがいもあり楽しく続けることができます。

FIREを目指している人は、経済的自立を目指す前に自分が生涯をかけてやってみたいと思える仕事を懸命に探すことが必須です。そうすれば、経済的自由を得ながら充実した人生を実現することができるでしょう。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年8月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。