制度で築く政治の透明性:地方議会の議案別議論促進サイトの構想①

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前回の論考では、我が国の地方議会が抱える機能不全について整理した。

制度で築く政治の透明性:地方議会に蔓延する機能不全に対する処方箋
はじめに:国政から地方へ、制度設計の応用 先の論考では、国政における重要議題について、各政党の政策スタンスを一覧で閲覧できる民間主導型のサイト構想を提案した。これは、情報公開の新たな地平を切り拓く制度設計として、民主主義の言論空間を再...

今回はその問題意識を踏まえ、地方議会の透明性を高めるための新たな制度的提案──「議案別議論促進サイト」の運用フローと、その導入によって期待される意義について述べたい。

サイトの基本運用フロー

本サイトは、全国の都道府県および市区町村に対してアカウントを発行する設計とする。自治体の首長または議員がマイナンバーによる認証(API連携)を経てログインすることで、当該自治体専用の議論ページが開設される。首長または議員は、ログイン後自分の情報を登録し、議論すべき議案情報の登録に遷移する。

議案登録時には、以下の情報等を入力する:

  • 議案上程年月日
  • 議案番号
  • 議案名
  • 必要に応じて、自治体公式サイトの議案情報へのリンク

その後、首長が起案者の場合は、議案の意義や有効性を記述。議員が起案者の場合は、議案に対する評価や賛否を記述する。これらの情報はすべて公開され、登録後には自治体内の首長・議員に通知が自動送信される。通知を受けた議員・首長は、各自の見解を追記することができる。

一定期間の公開後、当該自治体の住民による当該議案に対する賛否投票が可能となる。投票資格の確認はマイナンバーによる認証で行い、希望者は実名で意見表明も可能(文字数制限あり)。投票期間終了後も、議論と投票履歴は保存・公開され続ける。

※ マイナンバーAPIの公開条件については、以下のリンクを参照:

【参考】マイナンバーシステムのAPI公開条件について

このサイトの守備範囲は、日本の自治体数である1,788団体(都道府県、市、特別区、町、村)となる。それらのすべてにサイトは振り出されるが、当該自治体の政治家が利用しなければ、当該自治体の個別サイトは動かない。

大枠は以上のような仕組みを想定している。次に、このサイトのもつ意義を述べたい。

意義①:住民参加による疑似的な直接民主制の実現

この仕組みにより、議会を経由しない住民参加型の意思表明が可能となる。すべての議案に関心を持つ住民は少ないが、自分の生活に直結する議案には自然と関心が集まる。

たとえば、佐倉市では昨年、公立幼稚園の閉園問題が全国ニュースとなった。普段議会傍聴に訪れない若い保護者層が多数傍聴に参加し、ネット上でも活発に情報発信した。このような「自分事」としての議案に対して、住民が意見を表明できる場を制度的に整えることは、議会の透明性と市民の納得感を高める有効な手段となる。

意義②:マイナンバー活用による電子投票制度の前進

マイナンバーは、行政の効率化と透明性向上に資する制度であるにもかかわらず、我が国では活用が進んでいない。一方、エストニアなどのIT先進国では、マイナンバーを基盤とした電子投票や政治参加が制度化され、国民の政治への納得感が高まっている。

【参考】マイナンバーと政治インフラ:IT先進国エストニアを参考に

このサイトは、マイナンバーの活用を通じて、電子投票制度の社会的受容を促進し、政治参加の新たなインフラとして機能する可能性を秘めている。

意義③:議会外のステークホルダーとの対話促進

このサイトの機能を工夫すれば、議会内の首長・議員だけでなく、住民や地域団体、NPO、事業者などの外部ステークホルダーが議案に対して意見を表明する場にもなり得る。これにより、議会が閉じた空間ではなく、地域社会全体の意思形成の場として機能する可能性が高まるだろう。

次回の引き続き、このサイトがもつ意義について見解を述べる。