2025年夏の全国高校野球で、多くのプロ野球選手を輩出することで知られる広陵高校が、野球部内暴力騒動を発端として出場を辞退した。
個人的感想としては「昭和型体育会系の民度などこの程度だろう」と放念していたが、興味深かったのはその後の反応だ。
1つは、当事者である朝日新聞側のオールドメディアが、部内暴力という本質的病巣から目を逸らし、SNS批判へと論点をすり替えるという幼稚な延命戦略を図った点。
そしてもう1つは、この昭和型体育会系部活動という破綻したシステムを「必要悪」として(極少ないとはいえ)擁護する声があがった点である。
前者の問題は下記アゴラ記事で指摘されている。
よって後者——「必要悪」という免罪符に隠れた制度的怠慢を徹底解体してみよう、との考えから本記事を認めるに至った。
謝罪する広陵高校の堀正和校長
NHKより
昭和型体育会系「部活動」は学校に必要ない
そもそもこのような学校部活動システムは、教育現場に必要なのだろうか。
成長期にある少年少女達が体を鍛える「体育」と、切磋琢磨して競争する「競技」の2つは、慥かに必要だ。
しかしそれが「学校の部活動」という閉鎖的な場所である必要は、全くない。
まず暴行といった不祥事が、なぜ(運動部)部活動で発生するのか。
その根本原因は、これら部活が学級・進級・推薦・生活指導を抱える「生活の母艦」たる学校と一体化していることにある。
学校の中で部活が運営されると、生徒や保護者としてはより安全かつ透明な場に移ってスポーツを続けたくとも、同時に転校を伴わざるを得なくなる…つまりExit(離脱)のコストが非常に高いのだ。
さらに学校での成績評価者たる教師に、部活の顧問・生活指導からの推薦権限といった多面的な権力が集中することで、逆らえば試合に出られないだけでなく、進学推薦も外されかねない等のような危惧からVoice(発言)も封じられ、残るのはLoyalty(忠誠)しかない。
これらの「見えない鎖」から、抑止の効かない従属関係が固定化し、不祥事が繰り返される構図だ。
つまり前時代的な不祥事を防ぐ特効薬は、部活=競技の場を学校から切り離すことといえる。
欧州ではドイツを始め、学業は学校、競技は地域クラブやユースアカデミーが担う(プロへの道筋もこちら)ものと、切り離されているのがごく当たり前だ。
そして日本でもすでに、同様の仕組みがJリーグ下部組織や一部の地域クラブで実績をあげており、スポーツ庁も地域クラブ移行を明確に方針化している。
これは空論ではなく、実体として成立しているのだ。
「必要悪」という暴論
当然視される「学校=学業+部活」というシステムは、他先進国と比べれば例外で、日本でもかつては寺子屋や私塾といった自由な教育が主流だったはずだ。
にもかかわらず、旧態依然の当事者は免罪符のように「必要悪」と居直るのだろうか。
必要悪の「悪」を正当化するなら、最低でも下記4条件を満たすべきであり、これらを通らなければ単なる「悪」に過ぎない、と筆者は考える。
- 代替不可能性
- 害の最小化
- 透明な統制
- 退出可能性
「害の最小化」「透明な統制」「退出可能性」は、現行システムでは望むべくもない。
縋れる条件は「代替不可能性」のみで、それも先進国標準にして既定路線である分業化によって崩れる以上、この期に及んで現行の部活システムを必要悪などと宣う主張は微塵も成立しない。
ほか3条件の解決手段も、先に示した通り分業によって外部オプション(退出機会)が保証されれば、自ずと解決していくだろう。
VoiceよりExitの方が自由かつ効率が良い、というのは(アゴラ読者ならおなじみの)定型的事実であるからだ。
必要でもない「悪」の制度的削減は、今まさに進行している。
SNS社会でこんな昭和の世界は維持できない
何より決定的なのが、今のSNS時代に現行制度のような密室の論理は維持できない、という点だ。
広陵高校騒動の発端が示す通り、指導の実態は動画・音声・チャットなどで証拠として記録・蓄積されやすくなり、通報・漏洩させる先も豊富となった。
その内容が行き過ぎとされ「炎上」すれば、日大アメフト部の「反則タックル問題」のように、直後の志願者減少などの形で収益に影響しうる。
近年不倫騒動が世間を騒がせることからも分かる通り、「道徳化された憤り」は繰り返し可視化・拡散しやすい(筆者的にそれが良いとは言えないが…)のは、計量研究でも示された通りであるからだ。
強圧的・不透明な運用は、説明責任とリスクが過大になり、採算が合いにくい構造となったのである。
繰り返し述べた通り、今後は外部クラブのような学校外選択を取りやすくなるのだから、「その枠組みが唯一」という前提は崩れるしかない(競技により程度差はある)と言える。
冒頭で示した「中傷SNSへの論理のすり替え」は、自分達の牙城をピンポイントで落とすネット言論に対する、断末魔なのかもしれない。