ちょっとテクニカルな話だが、Rosenthal-Wongの中に、大阪の問題に関係する話があったのでメモ:
一般には、中国には法の支配がないため、財産権が保護されなかったので没落したと思われているが、近世までは中国のほうが取引の安全性は高く、不動産や金融取引では多くの契約書が交わされていた。戦争の続いていたヨーロッパに比べれば、財産権は中国のほうが安全だった。中国の商人は全土にわたって宗族(同族集団)のネットワークを形成し、信用情報を共有して遠隔地取引を行なっていたのだ。
中国では皇帝が重税で人民を搾取したために衰退したという俗説も史実と違う。中国の税率は地域によって違うが、5~10%で、ヨーロッパの30%以上よりはるかに低かった。ヨーロッパでは戦争が続いていたため、高い税のほとんどは軍備に使われたが、中国では税は灌漑などのインフラ整備に使われたので経済が発展した。
西洋では重税に対して国民が議会を組織して抵抗し、法律の制定を求めた。これが法の支配の始まりである。しかし中国では、重税をきらう商人は他の地域に逃げた。ハーシュマンの有名な分類でいえば、西洋の抵抗はvoiceだったのに対して、中国ではexitで重税に歯止めをかけたのだ。
Exitは自由意思にもとづく経済メカニズムだが、voiceは政治的な交渉なので、その効率の違いは明らかだ。しかし戦争の続いていた西洋では、exitで隣国に逃げることができなかったため、効率の悪いvoiceを取らざるをえなかった。その制度化として議会ができたが、それは近代国家にとって不可欠の条件ではない。移動の自由さえ保証されていれば、都市のリーダーは選挙で選ばれる必要もない。
このようにexitによる地域間競争で税率を抑制した中国は、戦争と重税に苦しむヨーロッパよりも豊かだったが、18世紀以降、軍備のために工業の発達したヨーロッパの生産性が向上し、軍事的に世界を支配した。このため西洋の民主制が最高の政治システムだと思われているが、平和なときは中国のような地域間競争のほうが効率的だ。それが20世紀末から中国が急速に成長した一つの原因である。
主権国家や民主制は、人々が国外にexitできなかった時代のレガシーであり、グローバル時代には適していない。おそらく21世紀前半には主権国家は支配力を失い、多くの都市国家がグローバルに競争するようになるだろう。大阪はそのパイオニアになる可能性がある。