たいそうなタイトルを掲げました。実は私は理論ではわかっているのですが、実務部分でどうしても情報がもっと欲しいのです。なので今日は皆さまからのお助けも頂きたいという意味でこのネタで書かせていただきます。
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ステーブルコインの市場規模は既に世界で30兆円台後半とされ、26年末までにこの3倍にもなるのではないかとされる破竹の勢いで進む決済手段です。一種の仮想通貨ですが、コインが政府紙幣などに担保されたものであり、安全性と安定性が高いというのが売りであります。ビットコインですと価格がどこに飛んでいくのかわからず。今日の1万円は明日の5000円かもしれないし、15000円かもしれません。それでは消費者も商売する側もたまったものではありません。ところがイーサーネットという別の仮想通貨をベースに発行するステーブルコインだとその価格のぶれが極めて小さいものになるため、決済手段として有効である、とされるわけです。
ステーブルコインの決済額が巨額になっているのは貿易取引が主体なのだと思います。
私が想像するに、企業は決算をするにあたり、当該国の通貨建てで決算を発表します。つまり少なくとも現時点ではステーブルコイン建ての決算書は受け付けていません。一方、貿易決済は割と面倒なプロセスがあること、代金の授受がSWIFTという前近代的な金融決済システムの上で成り立っていること、そしてその送金決済は決して安くなく、そして時間がかかる場合もあり、それを避けるために決済の一時的媒介手段としてステーブルコインを使っているのではないか、と見ています。
また二国間取引の場合、為替は避けて通れないのですが、どちらかの通貨に合わせる際に必ず、一定の手数料が必要になります。これがステーブルコイン取引だと大幅に下げられるメリットがあります。更に日本や先進国同士ならば厳しいルールや監視のもとに取引が行われますが、新興国同士などだとかなり怪しい取引も存在する中でステーブルコインだと資金洗浄を含め、やりやすいことは確かでしょう。
業務上、貿易決済がある私も当然ながらステーブルコインの導入には極めて興味がある訳です。まず、現状、カナダから日本に貿易代金を払う場合の流れを説明します。さすが金額が大きいのでネットで処理できず、口座の登録者である私が銀行に直接出向く必要があります。手続きは15分ぐらいで終わりますが、送金側であるカナダの銀行はカナダドル建て送金にもかかわらず、手数料で約5000円取ります。この銀行と日本の受け側銀行はSWIFTの相性がいいので当地の午前中に送れば日本時間の翌日朝には着金しています。
ここからが面倒くさいのです。まず着金情報を銀行に送ります。資金の目的も聞かれます。次に当該輸出代金に相当する請求内訳を全部要求されます。銀行側はそれを全部足し算し、送金額と一致していることを確認して私の日本の会社の口座に円建てで入金してくれるのです。かつて一度だけ、請求書が間違っていて合計金額と送金金額が不一致だったことがあり、その時は一致するまで入金をしてくれませんでした。私もイライラしますが、銀行も私ごときでこれだけの手間をかけていたら作業量は膨大だろうなぁと気の毒に思います。
もしもステーブルコインになったらこの煩わしいプロセスから解放されるのか、ここが知りたいのです。銀行が面倒な事務手続きを行っているのは財務省の指導ゆえです。よってステーブルコインになったら誰がこの面倒な事務手続きをやるのでしょうか?
日本ではステーブルコインの第一号としてJPYC株式会社が発行するJPYCというコインが昨日、資金移動者として国から許可を得たので早々にビジネスを開始すると見込まれます。第一号ということはたぶん、他社、特に金融機関などが続々と似たような仕組みでコインを発行するのではないかとみています。例えば三菱UFJとみずほ、三井住友銀行が提携して開発を進めているステーブルコインは三菱UFJ信託銀行傘下で発行するようで、こちらもGOサインが近いとされています。
1-2年後にはステーブルコイン決済が日本で普通に行われる可能性は多いにあると思います。ただし、これではQR決済が当たり前になった日本において更に新たな決済手段ができるわけで市場淘汰が起こりそうです。ステーブルコインが法人など大口決済に向いているとすればそのあたりで使い分けができるのでしょうか?私が読み取る限り、貿易決済にはまだまだ時間がかりそうです。まず、JPYCで決済できるのは現在は100万円まで。2番目に海外にJPYCを扱うコイン業者ないうえに、例えばカナダではまだ法的整備が終わっていないと理解しています。
とは言え、この新たな切り口はどんな構造変化を起こすのでしょうか?まず、銀行の役割は減るのかどうか、です。私が想像するに銀行はより与信行為に傾注し、日々の決済業務は大きく変化するような気がします。とすれば日本にリテールバンクは必要か、という話にもつながりかねません。
企業レベルにおいて決済がステーブルコインが日常的に行われるとすれば経理担当者は銀行のオンラインバンキングから取引明細を見るのではなく、ステーブルコインのステートメントをみて起票したりするのでしょうか?当然ながら決算時に繰り越すコインを決算書にどう表記するかという実務処理の話も出てくるでしょう。
一般消費者ベースでみると政府通貨よりも使い勝手の良いコインにシフトする可能性は高いと思います。特に商店は問題になっているクレカフィーやQR決済コストが極限まで絞れるはずです。
なぜコストがかからないかと言えば例えばJPYCを発行する会社は発行量に対して短期国債の売買を行い金利で利ザヤを稼ぐのです。つまりコインそのものが商売ネタではないのです。故にタダの様なコストが出現するわけです。既にアメリカではそのような傾向が見て取れます。
また日本の一部の上場企業が「仮想通貨に投資」というだけで株価が暴騰しており、確かに新たなるブームの幕開けが近いという感じはします。
あまりにも早い時代の変化に時として辟易とすることもありますが、ついて行かねばならないのでしょう。いやはや、のんびりカウチに寝転んでいる暇は与えてくれないのですね。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年8月21日の記事より転載させていただきました。