トランプ米大統領は18日、ウクライナのゼレンスキー大統領や欧州首脳らとホワイトハウスで会談を行い、ロシアの侵攻を受けているウクライナ情勢について協議した。トランプ氏は、ロシアによる再侵攻を防ぐために、ウクライナの安全保証に関与する意向を表明する一方、ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳会談の開催に向けて準備していくことを明らかにした。
米ホワイトハウスで開催された米・ウクライナ・欧州主要国首脳会合,2025年8月18日、ウクライナ大統領府公式サイトから
ウクライナの安全保障については、その後、ロシア側から消極的な発言が流れるなど、まだ議論しなければならない問題が山積しているのが現状だろう。そこで「2週間以内に露ウクライナ首脳会談を開催する」(トランプ大統領)という問題について考えてみたい。
欧米メディアは既に開催候補地を具体的に挙げている。①国連の欧州本部があるスイスのジュネーブ、②ハンガリーの首都ブタペスト、③中立主義を国是とするオーストリアのウィーン、そして④アラブ諸国での開催だ。①はフランスのマクロン大統領が提案。②はロイター通信が米高官の話として報じた、③はオーストリアのストッカー首相が「ウィーンは国際会議の開催地のメッカ」とアピール、④は欧米以外の開催地としてアラブ諸国(独民間放送ニュース専門局NTVのモスクワ特派員)、等々だ。
ウクライナの今後の情勢は最終的にはプーチン大統領の決定次第といった感じがする。包括的和平を進めるトランプ氏にとってもプーチン氏の合意が得られない場合、全てのアイデアは絵に描いた餅に過ぎない。ただ、第2回米露首脳会議の開催、その枠組みの中で「露ウクライナ両国首脳会談」の実現の可能性は皆無ではないだろう。
そこで開催地について少し考えてみたい。米ニュースメディア「ポリティコ」によると「ウクライナとロシアの大統領がブダペストでトランプ大統領と会談する兆候が強まっている。シークレットサービスはすでに準備を進めている」という。「ブタペスト開催」を既成事実のように報じている。
なぜ旧東欧のハンガリーのブタペストが首脳会談の開催地として急上昇してきたのか。その理由を探ってみよう。欧州連合(EU)から「民主主義と法の順守」を求められるなど「欧州の異端児」のオルバン首相はロシアのプーチン大統領だけではなく、トランプ氏との友好関係を享受している欧州の政治家だ。ハンガリー・ファーストを掲げるオルバン首相はウクライナ避難民の救助など人道的な支援は行うが、それ以外のEUの軍事支援、武器供給を拒否し、EUの対ロシア制裁を拒んできた。その背後には、ハンガリーが安価のロシア産ガスの輸入を維持するうえで、ロシアを敵にすることはできない、という判断がある。ハンガリーは2022年4月7日、首都ブダペスト南方にあるパクシュ(Paks)原発への核燃料をロシアから空輸している。同原発はハンガリーの国内電力の半分を供給する。ハンガリーは石油、天然ガスばかりか、原発とその核燃料もロシアに依存しているのだ。
オルバン首相は2023年9月25日、ブタペストの国会演説でロシアと戦争中のウクライナを酷評し、「キーウ政府はウクライナ最西端ザカルパッチャ州に住むハンガリー系少数民族約15万人の母国語の権利を制限している。その権利が回復されるまで、わが国はウクライナを国際政治の舞台では支援しない」と述べたことがある。オルバン首相は、「EUの対ロシア制裁はロシアよりEU加盟国の国民経済を一層損なうだけだ」と繰り返し主張してきた。
一方、オルバン首相は2024年7月12日、大統領選挙中のトランプ氏を訪問し、フロリダ州の私邸マール・ア・ラーゴで会合している。その一週間前の7月5日、オルバン首相はプーチン大統領と会談したばかりだ。。すなわち、オルバン氏はプーチン氏、そしてトランプ氏と米露首脳と良好関係を築いているのだ。米露(ウクライナ)首脳会談のホストとしてはオルバン首相は理想的な政治家といえるわけだ。
ところで、、ハンガリーは今年4月、国際刑事裁判所(ICC)からの脱退を表明した。この決定は、ICCがイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出したことを受けて行われたものだが、ICCから戦争犯罪人として逮捕状が出ているプーチン氏にとって、ハンガリーの決定は大歓迎だろう。プーチン氏はICC加盟国の訪問を避けたいはずだ。
ちなみに、ICCは2023年3月17日、ロシアのプーチン大統領とその側近に対し、ウクライナから子どもたちを違法に連れ去ったことが戦争犯罪にあたるとして、逮捕状を発付した。スイスとオーストリアはICC加盟国だ。加盟国はプーチン氏が入国すれば逮捕しなければならない義務を負う。
ここまで見ていくと、「ブタペスト開催」が有力となる。ブダペスト発の情報によると、ウクライナ軍の攻撃後、ロシアのパイプライン「ドルジュバ(友情)」を通じた原油輸送が再開された。ハンガリーのシーヤールトー外相は19日、X通信に「ハンガリーへの原油輸送は再開された」と投稿し、ロシア政府の迅速な修復に感謝の意を表している。さらに、「ウクライナがこの重要なパイプラインを再び攻撃しないことを期待している。これは我々の戦争ではない。ハンガリーを巻き込んではならない!」と付け加えている。
以上から、米露ウクライナ3国首脳会談の開催地レースではブタペストが頭一つ抜けてトップを走っているが、ダークホースはアラブ諸国だろう。例えば、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年8月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。