「組織論」の終焉と個人の時代の幕開け

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20世紀型の組織論は、「人数=力」という方程式で成り立っていた。しかし、この前提はもはや通用しない。むしろ、人数が増えることで生まれる調整コスト、コミュニケーションコスト、意思決定の遅延が、組織の競争力を奪っている。

仕事が速い人がやっている 捨てる仕事術」(後藤勇人著)あさ出版

指揮者は楽器を演奏しない

この言葉に、新しい時代のリーダーシップの本質が凝縮されている。従来の日本型リーダーは、プレイングマネージャーが理想とされた。自ら現場に立ち、部下以上に働く。それが美徳とされてきた。

しかし、これは本当にリーダーシップだろうか?と著者は疑問を呈している。

真のリーダーの役割は、個々の才能を最大化し、それを最適に組み合わせることだ。そのためには、自らが演奏することをやめ、全体を俯瞰する必要がある。

この発想の転換ができるかどうかが、これからの時代の勝者と敗者を分ける。

週3日しか働かない経営者がいたとする。多くの人は、これを「怠惰」と捉えるかもしれない。しかし、違う見方もできる。彼の「暇」は、戦略的に作り出された「思考の時間」だ。

現代のビジネスは、スピードが命と言われる。しかし、本当にそうだろうか? 速く走ることと、正しい方向に走ることは違う。多くの企業が、間違った方向に全速力で走っている。

週3日の経営者は、残りの4日で何をしているか。読書、旅行、人との対話、そして「ぼーっとする」時間。一見非生産的なこの時間こそが、次の一手を生み出す源泉となる。

私たちは何を恐れているのか

多くの人は「でも、うちの会社では無理」と言うだろう。なぜ無理だと思うのか。本当に無理なのか。それとも、変化することが怖いのか。

私たちは「忙しいこと」「大人数で働くこと」に、ある種の安心感を覚えている。それは責任の分散であり、失敗した時の言い訳でもある。しかし、その安心感こそが、私たちの可能性を殺しているのだと、著者は指摘する。

「やりたいことを、やりたい時に、やりたい人とできること」。これが成功の定義である。

売上高、社員数、オフィスの広さ──従来の成功指標は、もはや意味を持たない。大切なのは、自分の人生を自分でコントロールできているかどうかだ。それは、人生の主導権を取り戻すための思想であり、哲学だ。

私たちに必要なのは、「もっと頑張る」ことではない。「何を捨てるか」を決める勇気だ。その先に、本当の自由と成功が待っている。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

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