アフリカ・ホームタウン、特別ビザ問題:真相を究明せよ

TICAD9で記念撮影にのぞむ石破首相
首相官邸HPより

雲を掴むような横浜宣言

先週横浜市で開かれたTICAD=アフリカ開発会議にあわせ、国際協力機構(JICA)が国内4市をアフリカ諸国の「ホームタウン」に認定したことが「移民受け入れではないか」などと批判されている問題で、外務省は25日、取材に対し「特別の就労ビザなど検討すらしていない。あくまで交流推進事業の一環で、4市をアフリカ諸国へささげるなどあり得ない」と、SNS上の言説を全面的に否定した。

続けて外務省は、ナイジェリア大統領府に要請し、下記のようにプレス・リリースを削除させ改めさせた。

「JICAアフリカ・ホームタウン」に関して、#ナイジェリア 大統領府は、事実と異なる記載を削除した、新たなプレス・リリースを26日付で発出しました。なお、22日付けのプレスリリースは既に削除されています。

一連の動きに関し、X等のSNSはお祭り騒ぎとなった。中でも実業家で日本とナイジェリアのハーフの細川バレンタイン氏のYoutube配信等は辛辣で、日本政府・自治体の対応と日本人の意識の甘さに警鐘を鳴らしている。これらに対しオールドメディア等は陰謀論扱いで迎撃し応戦したが、今回のナイジェリアのプレス・リリース削除等で一旦は沈静化に向かうだろう。

そもそも今回の齟齬が生じたのは、TICAD9の成果とされる「横浜宣言」が国際会議の成果文書の常とは言え、あやふやで美辞麗句が並び、下記の箇条書きされた概要を読んでも具体的な像が浮かんで来ない所に根っこが有りそうである。

TICAD9横浜宣言(概要) 2025年(令和7年)8月 外務省アフリカ部

総論
TICAD9のテーマ「革新的な課題解決の共創、アフリカと共に」の下で、横断的事項として官民連携、若者・女性のエンパワーメント、地域統合・連結性にフォーカス。

各論
(1)経済

  • 自由で開かれたインド太平洋(FOIP)に好意的に留意。
  • アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)を通じた地域統合と連結性の強化、DX・AI・衛星データ利用の促進、AIガバナンス構築、官民連携強化。
  • 貧困・食料不安解消に向けた農業システムの強化、重要鉱物資源の安定供給・責任ある開発・世銀のRISE等を通じた現地における付加価値の付与の重要性。
  • 国内資金動員の強化、適切な債務管理、電力アクセスの改善、アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ(EPSA)の拡充を歓迎。
  • 多角的貿易体制(WTO)の重要性。

(2)社会

  • ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)達成に向けた保健システム強化、人材育成(初中等教育、高等教育、産業人材育成)。
  • 日アフリカの若者の相互交流の重要性、廃棄物処理の重要性、防災分野の日本の貢献を歓迎。

(3)平和と安定

  • 人間の安全保障促進の重要性、人道・開発・平和の連携。
  • グッドガバナンス・民主主義・法の支配の重要性、女性・平和・安全保障の促進。
  • 安保理改革に向けた協力を確認。核兵器のない世界の実現に向けたコミットメントを再確認。

(4)今後のTICADプロセス

  • 次回はアフリカ開催。変化する優先課題に適合させるべく、TICADがより良いものとなるよう検討。

「誤報」で処理か?

このような雲を掴むような内容に加えて、国際協力機構(JICA)と外務省と官邸の間で主体性が明確に定まっていないように見える事も混乱の一因だろう。

海外メディアとナイジェリア大統領府は、これでは記事が書けないし国内に成果をアピール出来ないと考え、盛って「誤報」を流したのか?

しかし、削除される前のナイジェリア大統領府のプレス・リリースは、次のように妙に生々しく具体的だ。内容は特別ビザの対象や日本の人口減少への支援にも言及し、移民政策そのものと言えそうな程のものとなっている。

Under this new partnership, announced on the sidelines of the 9th Tokyo International Conference for African Development, the Japanese government will create a special visa category for highly skilled, innovative, and talented young Nigerians who want to move to Kisarazu to live and work.

Artisans and other blue-collar workers from Nigeria who are ready to upskill will also benefit from the special dispensation visa to work in Japan.

He appealed to African countries to assist Japan as it grapples with the challenges of a declining population and shrinking agricultural land.”(抜粋)

これを見ると、次のようなやり取りがあったのかも知れぬと邪推の一つもして見たくもなる。

外務省 「今それ黙ってないと潰されちゃうでしょ‼」
ナイジェリア「すみません、つい嬉しくってHPにも書いちゃいました」

あるいは、海外では書かれる事も敢えて見越して、外堀から既成事実化を図ろうとしたのか?

何れにしても、今回の経緯が検証されず闇の中に消えて行く事があってはならないだろう。これは国会でも追及されるべき問題だが、たとえ3つの主要選挙で敗北しなお首相の座に居座り続ける石破氏が、関税と80兆円投資問題でトランプに止めを刺されて早期に退陣する事があっても、政府とオールドメディア等の鵺のような関係は続いて行く。

そして与野党とも移民関連については表向きはともかく概ね推進派であり、追及は際物とも言われた参政党や日本保守党に期待するしかなさそうな気もする。しかし、その参政党も先の参院選で大きく議席を増やしてからは少々上品となって来ている。それはそれで国民政党への飛躍を目指すのであれば必要なのであろうが、一丁目一番地のこの問題でも追及には言及しつつも今の所具体的な動きには出ていない。

今回のTICAD9に際して締結されたとされる300件を超える覚書のうち、大部分は未公開となっており、経緯の検証に付随してこれらの全面公開も請求すべきである。有志議員達には蛮勇を期待したい。