ドイツのメルツ首相、フランスのマクロン大統領、そしてポーランドのトゥスク首相の欧州3国首脳は27日、モルドバの34回目の独立記念日を祝し、欧州連合(EU)加盟を目指す同国との連帯を表明するために首都キシナウを訪問した。
モルドバの欧州統合を支援する欧州3首脳、2025年8月27日、モルドバ政府公式サイトから(左から、トゥスク首相、マクロン大統領、サンドゥ大統領、メルツ首相)
モルドバは2022年3月にEU加盟申請。同年6月に加盟候補国に認定された。2024年6月からブリュッセルとの間で加盟交渉がスタートした。
欧州3首脳は、マイア・サンドゥ大統領らとの会談で、ウクライナと国境を接するこの小国に対し、EU加盟への道筋と、ロシアによる不安定化工作の阻止を支援することを約束した。同国では来月28日、議会選挙が実施される。親ロシア派政党は政権交代を目指している。
メルツ首相は「EUへの扉は開かれている。私たちは、皆さんの自由と主権を守るために、皆さんと共にある」と述べる一方、「ロシアのプーチン大統領がモルドバに対してハイブリッド攻撃を行っており、同国の民主主義を弱体化させ、モルドバをロシアの影響圏に復帰させようとしている」と非難した。
マクロン仏大統領はモルドバに対し、更なる改革を促した。「モルドバ国民は、EU加盟が自国の将来にとって歴史的な機会であり、繁栄と安全保障への機会であることをはっきりと理解しているようだ」と評価した。
トゥスク大統領は、「モルドバのEU加盟は欧州全体の利益だ。欧州はモルドバと共により強くなるだろう」と強調した。
ウクライナと同様、旧ソ連共和国の一員だったモルドバは地理的には北部と東部はウクライナに隣接し、南部と西部はルーマニアに位置。人口は約260万人で産業は小麦やワインなど農業が主で、「欧州最貧国」と呼ばれる。
ところで、モルドバの東部トランスニストリア地方は親ロシア勢力が実質的支配する「沿ドニエストル共和国」が存在する。同地方はウクライナ南部のオデッサ地方と国境を接し、モルドバ全体の約12%を占める領土を有する。同地方にはモルドバ人(ルーマニア人)、ロシア系、そしてウクライナ系住民の3民族が住んでいる。なお、同地域には1200人から1500人のロシア兵士が駐在し、1万人から1万5000人のロシア系民兵が駐留。ロシア系分離主義者は「沿ドニエストル共和国」を宣言し、首都をティラスポリに設置し、独自の政治、経済体制を敷いている。
状況はウクライナ東部に酷似していることが分かる。プーチン大統領はモルドバの少数民族ロシア系住民の権利を守るという名目でロシア軍をいつ派遣しても不思議ではない。ちなみに、プーチン大統領の次の軍事ターゲットはジョージア、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、そしてモルドバだと予想されている。
同国では9月28日、議会選挙(一院制、定数101議席)が実施される。2021年の議会選挙では、サンドゥ大統領率いる親EU派の与党「行動と連帯」(PAS)が101議席中63議席を獲得したが、厳しい経済状況により与党は過半数を失う危機に瀕している。
世論調査ではPASがリードしているが、野党で親ロシア派勢力の「共産主義者と社会主義者の議員連合」(BCS)は政権交代を目指し、ロシアから選挙支援を受け、様々な偽情報やプロパガンダを流すダーティな選挙戦を展開させている。
なお、モルドバの中央選挙管理委員会は7月19日、親ロシアの野党連合「勝利」の選挙参加を禁止した。資金調達や支出報告に重大な法律違反があったためだ。国外に逃亡している親露オリガルヒのイラン・ショール氏がモスクワにて、政治ブロック「勝利」がモルドバ議会選挙に参加すると発表していた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年8月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。