自民党が総裁選前倒し選挙をやるかやらないかの判断を9月上旬に行うことしました。投票の結果、自民党の国会議員と47都道府県連の過半数が賛成の場合、総裁選をやることになります。
選挙管理委員会の逢沢委員長が投票者の名前を公表するとしたことからメディアのトーンは一時、「公表するなら議員は総裁選可否に沈黙か?」といったニュアンスの報道が相次ぎました。言わんとしていることは「自分の名前が反石破派として公表されるなら将来の自分の立場が弱くなるかもしれないので総裁選賛成票を入れるのはやめようかな」という意志薄弱、どっちつかずの議員が増え、逢沢氏ひいては政権幹部のシメシメという戦略を醸成させるということだろうと理解しています。
ただ、私はその報道を見た時、「果たして今の自民党議員はそこまで切迫感がないのだろうか?」と思ったのです。私はそもそも世論調査や各種調査を疑っています。石破氏は辞めなくてもよいという声が多いという点です。例えば共同通信の8月23-24日の調査では辞めるべきが40.0%、辞めなくてよいが57.5%になっています。ではこれを分析してみましょう。

石破首相インスタグラムより
この調査方法はランダム デジット ダイヤリング(RDD)方式、つまり全国無差別で電話をかけるという方式で統計の母数は1056件であります。一方、政党支持率はNHKの最新調査で自民党が29.4%、野党支持者は41.0%、支持政党なしが29.6%です。
ではここから類推します。まず、石破氏のままでよいと考える一般人がどれぐらいいるかです。私の大胆予想では自民党内が3割、野党支持者が8割、支持政党なしが5割とみています。これを石破氏の辞任是非の世論調査に当てはめるとざっくりした計算で自民党支持者が90名、野党が320名、支持なしから150名で合計560名となり、共同の調査(607名)にさほど遠くない結果を引き出すことができます。
私はなぜ野党支持者が石破氏でいいじゃないか、と考えるかといえば①思想が相当リベラルで強い中道左派であること ②議論が中庸で極端なブレがないこと ③野党支持者に「絶対にNO」と言わせる理由が少ないこと ④他に適任者がいないなら変な人になるより石破氏の方がましと考える人が多いのではないかとみています。
つまり現状打破を望むかどうか、という点において自民党内では危機感を強く持つ人が多いものの野党は石破氏があたかも野党の味方のような位置づけになっている公算を考えています。私が世論調査を疑っているというのは自民党の総裁選なのにRDD方式の世論調査なんて意味がないのです。一方、共同通信は地方新聞のニュースネタの主要供給源の一つですからそれを受け売りして報じます。すると地方の方は「そうか、石破氏はそんなに悪い人じゃないんだな」という印象操作に近い形になるのです。
総裁選の話に戻します。自民党内で投票結果の名前が公表されることでビビると思った政権幹部に思わぬ想定外が発生しました。神田潤一法務政務官が辞職をした上で総裁選を支持する(読売)と述べたのです。政務官は大臣、副大臣と共に政権を担う柱であるのでこのような声に広がりが出ると政権には想定外が生じることになります。
では党内、特に政権幹部の造反が起きる可能性はあるか、といえば私はあると見ています。これは自民党を大局で捉えた時、石破氏のグループはどうみても主流派ではないのです。とすれば今、政権にNOを突き付けたらそれは主流派が救ってくれるという意味にしかならないのです。
関ヶ原の合戦のようなもので、石田三成が味方を山のように集めても誰も戦場に行かず、造反だらけだったのと同じです。なぜなら武士は武士でしかなく、思想よりも「強いものにつく」という極めて単純な判断がそこにあるからです。武士を国会議員という言葉に置き換えればこの答は一目瞭然のようなものではないでしょうか?(お前は麻生氏を徳川だとみているのか、と言われそうですが。笑)
では仮に前倒し総裁選が決まったとします。ここからの予想は現時点では相当困難です。個人的に可能性を考えていた岸田氏は28日の講演で「(出馬を)現時点では全く考えていない」と述べています。ただ、政治家というのは都合が良い発言をするので「現時点は昨日の話だろう、今日は情勢が違うんだよ」と言ってしまえばそれまで。ただ、それはさておき、現実的に見ると小泉氏は中庸かもしれません。いまは自民党は濃い色合いを出せないし、議席で過半数を取っていない現状を考えれば高市氏では無理なのです。これは人気とは全く別の戦略的次元の話です。
では野党はそれに従うか、という点が次に出てきます。これも難しいですが、何か突発的状況が生じれば玉木氏を神輿で担ぎ上げるという大技がないとも限りません。ただ、仮に小泉氏ならば比較的考え方が明白で押しが強いので案外、自民党復権につながるかもしれません。ただし、父親似のところがあるので、暴走して国会議員をけむに巻くようなら短期リリーフかもしれません。
いずれにせよ、自民党生き残り決戦の火ぶたが切って落とされたということでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年8月29日の記事より転載させていただきました。






