自宅を糧に老後資金を調達するリバースモーゲージとリースバック、その光と闇

Asobinin/iStock

老後の生活費の調達方法としての自宅の活用

人生100年時代と言われる中で、老後の資金調達方法として注目を集めているものに「リバースモーゲージ」や「リースバック」というものがあります。

これは、どちらも、自宅を活用して、老後の資金を調達するものです。

ただ、その意味をよく理解していないと、「思ったものと違う」というトラブルになりかねない資金調達方法であります。

そこで、今回は、リバースモーゲージとリースバックの基本的な仕組みとその注意点についてまとめてみようと思います。

リバースモーゲージの特徴

リバースモーゲージの概要

リバースモーゲージとは、自宅を担保にそこに住み続けながら融資を受けるシニア層向けのローンです。

通常の住宅ローンとは異なり、契約者が生存中または契約期間中は毎月利息のみを返済し、元本の返済は契約者の死亡後、または契約期間終了後に担保不動産の売却代金で一括返済するか、相続人が手元資金で一括返済する仕組みです。

この仕組みにより、月々の返済負担が少ないのに、自宅を手放すことなく老後の生活資金を確保できるため、年金生活で収入の少ない高齢者に支持されているのです。

リバースモーゲージの種類

リバースモーゲージには、民間の金融機関が提供するものと、自治体や住宅金融支援機構などの公的機関によるものがあります。

公的機関のものは、「不動産担保型生活資金」や「リ・バース60」と呼ばれ、利用条件や資金使途に制約が多い傾向がありますが、民間よりも金利が低い場合があります。

融資金額条件

一般的には一戸建て物件、特に土地の評価額が重視されます。

マンションは経年劣化による資産価値の下落率が高い影響で対象外となる場合が多いです。

みずほ銀行、東京スター銀行など、金融機関によってはマンションでも利用可能な場合もありますが、条件が厳しくなります。

借地や借家は通常対象外です。

担保評価額(住宅および土地)の50%または60%が融資限度額となるのが一般的で、8,000万円が上限となることが多いです。

長期優良住宅の場合や年齢によっては割合が高くなることもあります。

変動金利型や一定期間の固定金利型が多く、金利は定期的に見直されます。

民間の金融機関では概ね3%~4%台で設定されていますが、公的機関の「不動産担保型生活資金」は1%台と低金利です。

リバースモーゲージのメリット

1. 自宅に住み続けながら資金調達ができる

高齢者にとって、住み慣れた自宅を手放すことは精神的な負担が大きいものです。

リバースモーゲージなら、自宅を売却することなく、まとまった資金や定期的な収入を得ることができます。

2. 毎月の返済負担がない

通常のローンとは異なり、存命中は元本の返済が原則として不要です。

毎月の支払いは支払利息のみという場合が多く、手元資金の流出を抑制できます。

リバースモーゲージのデメリット

1. ”長生きしすぎ”で家を失い、借金が残る可能性がある

融資限度額に達した場合、その後の融資が途絶え、生活に支障が出る可能性があります。

金融機関によっては契約期間(最終返済期限)が設けられている場合があり、想定よりも長生きして契約期間が終了すると、元金と利息の一括返済が求められます。

一括返済できない場合、契約者が存命でも自宅を売却して返済する必要が生じます。

自宅の売却価格が借入金残高を下回った場合、差額の借入金が残ってしまい、最終的に自宅も失い、借金だけが残るリスクがあります。

一見、おカネのない高齢者から自宅を取り上げるのかと理不尽なようにも見えますが、融資をする金融機関からすれば、それもやむを得ないものだと言えます。

2. 相続人に負担をかける可能性がある

契約者が亡くなった際、相続人は自宅を売却して借入金を返済するか、現金で一括返済するかを選択する必要があります。

不動産価格が下落していた場合、売却代金だけでは借入金を返済できない可能性もあります。

その場合には、相続人がその返済しきれなかった借入金を返済しなくてはいけないことになります。

なお、元金の返済方法として、売却代金が借入残高に満たない場合、相続人がその負担を引き継ぐ「リコース型」と、売却代金が借入残高に満たない場合に相続人が不足分を返済する必要がない「ノンリコース型」があります。

ただし、ノンリコース型は相続人の負担がない代わりに金利が高めに設定される傾向があります。

ちなみに、住宅金融支援機構の「リ・バース60」では、約99%の申込者がノンリコース型を選択しています。

3. 金利変動リスク

多くのリバースモーゲージは変動金利を採用しているため、金利が上昇すると借入残高の増加ペースが早くなります

長期間利用する商品だけに、金利変動の影響は大きくなる可能性があります。

4. 不動産価格下落リスク

担保となる自宅の価値が大幅に下落した場合、融資限度額が減額されたり、追加担保を求められたりする可能性があります。

5. 中途解約が困難

一度契約すると、中途解約は原則として借入金の一括返済が必要になります。

これにより、途中で契約内容を変更することが困難になります。

6. 対象物件や利用者の制限

多くの金融機関では、一戸建て住宅のみを対象としており、マンションは対象外としているケースが多いです。

また、利用者の年齢制限(多くは55歳以上)や年収制限もあります。

リースバックの概要

リバースモーゲージ以外にも、自宅を活用した資金調達方法として「リースバック」があります。

リースバックとは、自分が所有する財産をリース会社に売却をして、その売却代金を得ます。

その上で、同じ資産をそのままリース契約を締結して利用をし続けるものです。

実質的には、その財産を担保にして融資を受け、その返済をしているのと同じです。

そのリースバックの対象資産を自宅とする。つまり、自宅を売却して現金化し、その売却金を一括で受け取ります。

その後、売却した家を賃貸借契約を結んで借り、家賃を支払うことで住み続けることができるのです。

要するに自宅を担保にして生活費の融資を受けるということ。これはリバースモーゲージと同じです。

しかし、その際に、リースバックでは、既に自宅はリース会社に売却済みであり、その所有権はリース会社にあることが、リバースモーゲージとの大きな違いです。

リースバックのメリット

1. 資金使途の制限がない

リバースモーゲージでは、老後の生活資金、リフォーム、住宅ローンの借り換えなど、目的が限定される場合があります。

それに対して、リースバックでは、自宅の売却代金は自己資金となるため、原則として資金使途に制限はありません。

2. 年齢制限がほぼない

リバースモーゲージは、高齢者向けの商品であり、一般的に50歳、60歳、または65歳以上といった年齢制限があります。

リースバックは、成人であれば利用可能であり、年齢制限がない場合がほとんどです。

3. 対象物件の範囲が広い

リバースモーゲージは、土地の評価が重視されるため、一般的には一戸建てが対象となることが多いです。

マンションは対象外となるか、条件が厳しくなる傾向にあります。

地域も首都圏や主要都市に限定されることが多いです。

それに対して、リースバックでは、戸建て・マンションともに可能な場合が多く、地域や物件の条件は事業者によって異なります。

4. 推定相続人の同意と保証人が不要

リバースモーゲージは、契約者が亡くなった後に自宅売却が前提となるため、推定相続人(子どもなど)全員の同意を必要とする金融機関が多いです。

それに対して、リースバックは、自宅の売却という形のため、相続人の同意は不要です。

また、リバースモーゲージでは、金融機関によっては保証人が必要となる場合があります。

公的な「不動産担保型生活資金」では連帯保証人が必要です。

しかし、リースバックでは、売却するだけですので、保証人は不要です。

リースバックのデメリット

1. 家賃負担が高めに設定される

ぶっちゃけた話、リースバックというのは「貧者の資金調達」であり、銀行からの融資が受けられなくなった先が窮余の策として実行されることが一般的です。

そのため、資金調達のコストは、銀行融資よりもかなり高くなります。

リースバックの場合、それが家賃となるため、その支払家賃の金額は周辺相場に比べて割高に設定されることが多く、毎月の負担感は高いと言わざるを得ないでしょう。

2. 買取価格は安く、買戻価格は高い

貧者の窮余の資金調達であるため、リース会社の買取価格については、安く買い叩かれることを覚悟する必要があります。

リースバックの触れ込みに、お金ができたら、買い戻しをすることも可能だと言われるのですが、その買取価格は、割高に設定されることも多いです。

そもそも、毎月の賃料の負担が大きいため、手元にお金が残ることは少なく、現実に自宅を買い戻すことは、かなりハードルが高いと言わざるを得ません。

3. 定期借家契約であれば満了後には退去も

建物の賃貸借契約については、貸主側が正当な理由なく更新を拒否できない「普通借家契約」と、期間の定めがあり、契約が更新されない「定期借家契約」があります。

自宅のリースバックでは、定期借家契約のみを取り扱う会社が多いです。

定期借家契約の場合、賃貸契約が終了した時点での退去を求められるのが前提です。

また、2-3ヶ月間家賃の支払いが対応されると、契約が解除されるなど厳しい契約がされていることもあります。

既に、自宅は売却され、自分のものではないということを認識する必要があるのです。

人間の寿命は誰にもわからない

今後は、財産を残す子どもがいないというケースも増えてくるとは思います。

その際には、無理をして自宅を残す必要はないので、その自宅を老後資金の糧に活用するというのは、ある意味合理的な選択となるでしょう。

しかし、自分が何歳まで生きるのかは誰にもわかりません。

万一、想定よりも長生きしてしまった場合、これらの資金調達が思わぬ形で重荷となることがあるので、契約内容とメリット・デメリットについては、きちんと理解をしておくことが必要でしょうね。


編集部より:この記事は、税理士の吉澤大氏のブログ「あなたのファイナンス用心棒」(2025年8月28日エントリー)より転載させていただきました。