国民所得って何?

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この記事では、日本の国民総所得(GNI)、国民純所得(NNIまたはNI)についてご紹介します。

1. 国内(Domestic)と国民(National)

現在、国の経済規模を表す指標は国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)が一般的となっています。

一方で、かつては国民総生産(GNP: Gross National Product)が一般的に用いられてきました。

似ているようで少し違うこの国内(Domestic)と国民(National)とは何なのでしょうか?

今回はこのあたりの確認をしていきたいと思います。

集計する対象として、領域(国)と居住者という分け方があります。

内閣府の資料によれば、居住者とは次のように決められているようです。

居住者であるのは、その領域内に経済的利害の中心を保持している(無期限あるいは長期間にわたりかなりの規模で経済活動・取引に従事している)場合である

つまり、外国籍の人(外国人)であっても居住者であれば、その国で経済活動をした結果が「国内」の統計結果に反映されることになります。

一方で、「国民」とはまさに日本人の場合であれば日本国籍の人という意味ですし、「国」とは上記でいうところの領域そのものです。

つまり、国内総生産(GDP)とは、日本国内での生産、支出、分配の総額であって、その中には日本に住む外国人の経済活動の結果も含まれる事になります。

逆に、海外に住む日本人の経済活動は、GDPには入らない事になりますね。

一方で、国民総生産(GNP)とは、自国民の経済活動の結果を集計したものになります。

つまり、日本国内に住む外国人の経済活動は除外され、外国に住む日本人の経済活動が含まれるという考え方です。

現在では、国民総生産(GNP)という表現ではなく、国民総所得(GNI: Gross National Income)という表現が一般的となっているようです。

3面等価の原則、所得(Income) = 生産(Product) = 支出(Expenditure)の関係ですね。

2. 国民総所得とは?

国民総所得とは、上述したように国内全体ではなく、国民全体の所得の合計です。

これは、GDPを基本として考えると次のような式で表現できることになります。

国民総所得(GNI) = 国内総生産(GDP) + 海外からの所得 – 海外への所得
= 国内総生産(GDP) + 海外からの所得の純受取

上式はGDPに対して、海外との所得の受払いの正味分を調整したものとなります。
この所得とは、具体的には雇用者報酬と財産所得になるそうです。

また、GNIから固定資産の減価分の固定資本減耗(企業会計における減価償却費に相当)を差し引いたものが、国民純所得(NNI: Net National Income)と呼ばれます。

国民全体の正味の所得の合計となります。

日本の統計では単に国民所得(NI: National Income)と表記されていますが、OECDではNNIとなっているので、本ブログではOECDの表記に合わせます。

国民純所得(NNI) = 国民総所得(GNI) – 固定資本減耗

日本は国内総生産が停滞してきましたが、海外への投資が超過しており、近年では投資収益が大きく超過しています。

このため、GDPよりもGNIの方が実態としての所得水準を良く反映しているのではないかという意見もあるようです。

3. 日本の国民所得

具体的な統計データで日本の国民所得(GNI, NNI)を確認していきましょう。

図1 国民総所得・国民純所得 日本
国民経済計算を基に作成

図1が日本の国民総所得国民純所得の推移をグラフ化したものです。

国民総所得(黒の折れ線)はGDP(青)に、海外からの所得(緑)を加え、海外への所得(赤)を差し引いたものとして表現されています。

国民純所得(ピンクの折れ線)は、国民総所得から更に固定資本減耗を差し引いたものです。

オレンジの折れ線(右軸)は、海外からの所得の純受取(海外からの所得-海外への所得)の、国内総生産に対する比率です。

日本経済のピークとなった1997年は、GDPが543.5兆円、GNIが550.7兆円でGDPとGNIはほとんど変わりませんでした。

海外からの所得の純受取は7.2兆円で、対国内総生産比で見れば1.3%に過ぎませんでした。

一方で、2023年はGDPが591.9兆円、GNIは627.1兆円です。海外からの所得の純受取は35.2兆円に大きく拡大し、対国内総生産比で見ても6.0%となっています。

確かにGDP自体も当時より拡大していますが、主に海外への投資からの所得(財産所得)によってGNIは更に嵩上げされている事になります。

国民純所得は1997年の543.5兆円から、2023年の627.1兆円へと81.6兆円増加しています。

一方で、固定資本減耗を差し引いた国民純所得を見ると、1997年で423.9兆円、2023年では483.2兆円と、59.3兆円の増加に留まります。

国内総生産が48.4兆円、海外からの純受取が28.0兆円増えている一方で、固定資本減耗が28.7兆円増えています。

固定資本減耗の増加分が大きく、海外からの純受取分を相殺しているような状況です。

日本は国内での投資(総固定資本形成)が比較的多く、その維持費とも言える固定資本減耗の負担が大きいため、国民の正味の所得がその分目減りしている特徴もありますね。

4.人口1人あたりの推移

次に、国内総生産(GDP)、国民総所得(GNI)、国民純所得(NNI)について、人口1人あたりの推移も見ておきましょう。

今後国際比較する際には、人口1人あたりの水準が重要となります。

図2 1人あたりGDP、1人あたりGNI、1人あたりNNI 日本
国民経済計算より)

図2は国内総生産、国民総所得、国民純所得を人口で割って、1人あたりGDP、1人あたりGNI、1人あたりNNIを計算したものです。

日本の1人あたりGDPは長期間停滞傾向が続いていましたが、2010年代から上昇傾向となっていて近年では過去最高を更新しています。

2023年は476万円で、1997年のピークである431万円を45万円ほど上回っています。

1人あたりGNIは1人あたりGDPよりも上昇傾向が強く、1997年の437万円に対して、2023年には504万円と67万円の増加です。

一方で、1人あたりNNIは1997年の336万円に対して2023年は389万円と、53万円の増加に留まります。

5. 国民所得の特徴

今回は、国民所得についてご紹介しました。

実際の計算としては、国内総生産(GDP)に海外との所得の受払いを計算したものが国民総所得(GNI)になります。

そこから更に固定資本減耗を差し引いたのが国民純所得(NNI)で、国民の正味の所得となります。

日本は海外への投資が超過している分だけ、GNIがかさ上げされています。一方で、固定資本減耗が多い日本では、NNIは他国以上に目減りしている可能性がありそうです。

「国民の豊かさ」を測る指標として、1人あたりGDPや、1人あたり調整可処分所得、等価可処分所得、平均給与など様々な指標が考案されていますが、1人あたり国民純所得も重要な指標としてOECD等で公開されています。

今回は日本の国民所得についてご紹介しましたが、次回以降では国民所得の国際比較についてご紹介していきたいと思います。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年8月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。