この秋、パリで出会う二つの大回顧展:サージェントとポワレ

加納 雪乃

Gwengoat/iStock

9月のパリ。ヴァカンスから戻ってきたパリジャンたちの話題は、楽しかった夏の報告とともに、様々な美術館で開催される秋のアートイベント。彼らの話題に上ること間違いなしの、この秋必見の注目企画展を紹介しよう。

一番の注目は、「オルセー美術館」で9月23日から来年1月11日まで開催される、「ジョン・シンガー・サージェント」展。

サージェントは、1856年にフィレンツェで生まれたアメリカ人。ローマ、フィレンツェ、パリで絵画を学び、パリとロンドンで活躍した画家だ。肖像画がとりわけ有名で、パリの上流階級に大スキャンダルを巻き起こした「マダムXの肖像」(メトロポリタン美術館蔵)や、バラやカーネーションが咲く庭で提灯を手にする少女たちを描いた「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」(テート・ブリテン蔵)などは、作者の名前は知らずとも、何かの機会に一度は目にした人も多いだろう。

出身地アメリカでは、19世紀末から20世紀前半に活躍した最も有名な画家の一人として高い評価を得ているが、彼の活躍の場の一つであったフランスでの知名度はこれまでそれほど高くなく、今回がフランス初のサージェント大回顧展。パリで制作された作品を中心に90点以上が「オルセー美術館」の壁を飾る。

ジョン・シンガー・サージェント展のポスターは、展覧会の目玉「マダムXの肖像」

目玉はもちろん、あまりにも官能的な絵画だ!とスキャンダルとなり、この作品によりサージェントがパリからロンドンへの移住をせざる得なくなったと言われる、「マダムXの肖像」。

19世紀末のパリは、産業が発展して新興ブルジョアが台頭し、華やかな社交が繰り広げられていた。フランス人のみならず裕福なアメリカ人も多く、サージェントは華やかなパリの街や上流階級の人々を、アカデミックな技術をベースに美しく優雅な雰囲気でカンヴァスに描いている。

”マダムX”も、パリの社交界の花形の一人だった。アメリカ出身でフランスの銀行家と結婚した、ヴィルジニー・アメリー・アヴェーニョ・ゴートローを描いたものだが、露出の多いドレスと艶かしいポージングが、スキャンダルの種となったのだ。”メトロポリタン美術館のラ・ジョコンド(モナ・リザ)”と称される傑作を観るだけでも価値がある展覧会だろう。

リュクサンブール公園を描いた作品。
展覧会を観てからこの公園を歩くのも一興だ

併せて観ておきたのが、6月からスタートし来年1月11日まで「装飾芸術美術館」で開催中の、「ポール・ポワレ」展。

ポール・ポワレは1879年生まれのフランス人。20世紀前半、パリで最も注目されるオートクチュールのデザイナーだった。女性のドレスからコルセットを外し、体の自由を実現した、モードの改革者。

ポール・ポワレ展の展示の様子。前衛的なフォルムや色使いが印象的
©Christophe Delliere

軽い生地を利用、シンプルでモダンなフォルム、鮮やかな色彩、フォービズムの画家たちのモチーフを取り入れた作品、バレエダンサーの舞台衣装制作、さらに香水や装飾オブジェのデザインなど、それまでのオートクチュールの範囲を超えた広い分野で活躍した、モード界の重鎮。ポワレの想像力と創造力の豊かさを満喫できる展覧会だ。

ゆったりとしたフォルムが特徴のドレス

活躍の時代は多少ずれるが、当時の華やかなパリの社交界をアートとモードで輝かせた二人のアーティストの企画展。併せて見れば、パリが最高に輝いていた時代の雰囲気をたっぷり感じることができるだろう。

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